スタッフのための透析マガジン　透析イロハ透析イロハVol7

パーサビブ

透析患者さんの運動療法の基本

透析患者さんにとっての運動の重要性^{1） 2） 3）}

一般的に透析患者さんは、さまざまな合併症により体力（運動耐容能）が低下しています。さらに頻回の透析による時間的拘束や、慢性的な食事制限による活動性・意欲の低下、栄養状態の悪化、慢性炎症なども加わり、QOLの低下へとつながっていきます。
そのため、運動療法は透析患者さんの体力維持や廃用症候群^※の対策として大変重要で、近年ではその有効性が多く報告されています。運動は生命予後を良くするとされ、特に高齢患者さんのサルコペニア・フレイル対策としても大きな役割を果たしています。

※廃用症候群…病気やけがなどによって体を動かす時間や強度が低下したことが原因で、全身にあらわれる諸症状のこと。筋萎縮や骨粗鬆症、起立性低血圧など。

体力が低下する要因とは？

健康な人に比べて、透析患者さんの体力が低下しやすいのにはさまざまな理由があり、それらが複合的に絡み合って慢性の運動不足状態を作り出しています。
透析患者さんならではの運動不足の原因には、主に以下があげられます。

運動によって得られる効果^2）

運動は、さまざまな効果をもたらします。「筋力がつく」「持久力がつく」以外にも、以下のような影響を全身に及ぼします。

特に高齢の患者さんは、サルコペニア・フレイルに要注意！^{1） 3）}

近年、透析医療の進歩によって、透析患者さんは長期生存が可能になってきました。しかし長期・高齢透析患者さんの増加がみられるようになると同時に、高齢者特有の問題点もあらわれてきました。脳心血管疾患やがん、感染症などの疾病リスクの高さや、認知症や転倒・骨折、日常生活動作（ADL）の低下・要介護などがあげられ、これらにサルコペニア・フレイルが密接に関連しています。
サルコペニアとは、加齢や病気、運動不足などによって筋肉量や筋力・身体機能が低下することです。またフレイルとは、サルコペニアなどを経て、生活機能が全般的に低下した状態をいいます。健康な人と比べて、慢性腎臓病（CKD）患者さんは腎不全状態による炎症性サイトカイン^※の増加や酸化ストレス、栄養不足、代謝性アシドーシス、糖尿病・心不全などの併存疾患などが関連しています。透析患者さんにおいては、さらに透析液中への栄養素の喪失や透析に関連した因子（透析中のエンドトキシン、透析膜の生体適合性など）が関与しており、その結果、サルコペニアになる割合が高くなります。

※炎症性サイトカイン…CKD患者さんでは、尿毒症状態や酸化ストレスなどが誘因となり、単球からの炎症性サイトカイン産生が増加する。

腎臓リハビリテーションの取り組み1）

近年、CKD・透析患者さんのサルコペニア・フレイルを防ぐためにも、「腎臓リハビリテーション」の取り組みが行われています。腎臓リハビリテーションとは「腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポートなどを行う、長期にわたる包括的なプログラム」です。運動療法だけでなく、栄養や薬物治療、睡眠などの休養、日常生活動作なども評価し、改善を行うことが重要であるとし、現在の「包括的リハビリ」の一つといえます。