スタッフのための透析マガジン 透析イロハ 透析イロハVol3

パーサビブ
リンとカルシウムの関係

リンとカルシウムの関係~ミネラル代謝異常と異所性石炭化~

透析患者さんのミネラル代謝異常 1)

腎機能が低下すると、高リン血症や低カルシウム血症、活性型ビタミンD低下、副甲状腺ホルモンの増加などのミネラル代謝異常が起こります。特にリンとカルシウムは全身性疾患を引き起こす原因となり、生命予後にも大きく関わっています。

透析患者さんにとって重要なミネラル

リン 2)3)

  • 1リンの役割

    リンは人体に必要な元素で、カルシウムと同じように、多くが骨に含まれています。リンは多くの役割をもっています。エネルギーを発生させる化合物(ATP)の構成成分になるほか、酵素の働きを調整したり、体液のpHバランスを保つなど、さまざまなはたらきに関わっています。

  • 2過剰または欠乏による人体への影響

    リンは肉や魚、卵、乳製品、大豆製品など食品中に多く含まれており、通常の食事を摂っている場合には不足することがありません。むしろ多く摂りすぎると、透析患者さんの場合、リンが正常に尿へ排出されず、血中のリンの濃度が高くなって「高リン血症」と呼ばれる状態になりやすくなります。高リン血症は、二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)を引き起こし、さらにはリンとカルシウムが結び付いて異所性石灰化が起こり、動脈硬化や関節症などにつながります。

  • 3過不足を防ぐための対処法

    血中のリン濃度の上昇を防ぐためには、無機リンや、たんぱく質よりもリンを多く含む食品を控えるよう栄養管理(食事管理)を行います。なぜなら、必要なたんぱく質を摂ろうとすると、リンは過剰に摂取されてしまいます。このため、経口リン吸着薬を服用し、リンの腸からの吸収を抑えます。

カルシウム 2)4)

  • 1カルシウムの役割

    カルシウムは、人体にもっとも多く含まれているミネラルです。そのうち99%は骨および歯に存在し、残りの約1%は血液や組織液、細胞に含まれています。経口摂取されたカルシウムは、骨への蓄積や、腎臓を通しての尿中排泄の経路によって、体内で調節されています。ビタミンDは、このカルシウムの吸収を促進するはたらきがあります。

  • 2過剰または欠乏による人体への影響

    血中のカルシウムが過剰になると、高カルシウム血症や高カルシウム尿症、倦怠感や意識の障害などの神経症状、腎機能障害などが起こります。また、リンの血中濃度の上昇と結びつくと、異所性石灰化に発展します。一方、ビタミンD活性化の障害や、副甲状腺機能低下症などによって血中のカルシウムが欠乏した場合、けいれん、テタニーと呼ばれる手の指の不随意な筋肉の収縮、骨粗鬆症などを招くことがあります。

  • 3過不足を防ぐための対処法

    カルシウムの体内におけるバランスを考える際には、摂取量や腸管からの吸収率、骨代謝(骨吸収と骨形成のバランス)に影響するビタミンD、副甲状腺ホルモンの値を測定して評価する必要があります。透析患者さんの場合、透析液の変更や服薬によって、血中のカルシウム濃度をコントロールします。

血中のリンやカルシウムの値が上昇すると…

異所性石灰化とは 5)6)7)

異所性石灰化とは、本来はカルシウムがつかない組織にカルシウム(リン酸カルシウム)が溜まる(石灰化)病態の総称です。
その中でも透析患者さんで問題となる異所性石灰化は、

①血管石灰化 ②心臓弁膜石灰化 ③筋肉内あるいは関節周囲の腫瘤状石灰沈着症 です。

※関節周囲伸側の軟部組織における、腫瘤状の石灰化を特徴とする珍しい疾患。

原因とメカニズム

動脈は内側から内膜、中膜、外膜の3層で構成されています。
血管石灰化とは、主に動脈の内膜・中膜に生じる非生理的な石灰化をいいます。

症状

かゆみや関節炎、骨折といった症状が起こります。また、進行すると動脈硬化が起こり、心筋梗塞や脳梗塞につながります。

血管石灰化と予後

一般的な動脈硬化は、突然のプラークの破綻で血管が詰まり、心筋梗塞や脳梗塞などを起こします。しかし石灰化した血管(動脈)では、血管の弾力性が失われてしまうため、特に血圧の低下により血流を供給できなくなります。慢性的な血流の低下は臓器の機能低下を招くため、血管石灰化は心血管リスクを高め、生命予後に深刻な影響を及ぼすと考えられます。

リン・カルシウムの代謝を管理するには
  • 参考文献・HP

  • 1)深川雅史 監修:こんな時どうすれば!? 透析患者の内科管理コンサルタント, 金芳堂, 2017

  • 2)日本人の食事摂取基準(2020年版)(厚生労働省) を加工して作成

  • 3)「e-ヘルスネット 健康用語辞典 栄養・食生活(リン)」(厚生労働省) https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-038.html を加工して作成

  • 4)「e-ヘルスネット 健康用語辞典 栄養・食生活(カルシウム)」(厚生労働省)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-042.html を加工して作成

  • 5)小川洋史 岡山ミサ子 宮下美子 監修:透析ハンドブック 第5版, 医学書院, 2018

  • 6)中西健 監修:透析患者の管理 知りたいこと。知るべきこと。, 東京医学社, 2019

  • 7)中元秀友 監修:これまでがワカる。これからがカワる。透析療法最前線, 東京医学社, 2018

2023年10月作成
PSV-Z130B

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