スタッフのための透析マガジン 透析イロハ 透析イロハVol4

パーサビブ
透析患者さんの食事療法の基本

透析患者さんの食事療法の基本

透析食の考え方 1)

正常な腎臓は1日24時間働いていますが、例えば血液透析では週3回(約12~15時間)の短時間しか腎臓の代わりはできず、また腎臓のはたらきのすべてを補うことはできません。そこで、食事の量やバランスを調整する「食事療法」が必要になります。

栄養状態は、健康状態や体力、生命予後を大きく左右します。一人ひとりの透析患者さんの身体状況に合ったバランスの 良い「透析食」で合併症や体調不良を予防しながら、長期的に安定した透析生活を続けることが大切です。

食事療法のポイント

栄養バランスを整える 1)

栄養バランスを整えることは、食事療法の基本となります。たんぱく質・脂質・糖質を適正な割合で摂り、摂取量と消費量がつり合うようにします。そのためには規則正しい食生活を心がけ、1日にさまざまな種類の食品を食べるようにします。また、食品の栄養知識や透析食の考え方を身に付け、「食べてはいけない食品」を増やすのではなく「食べても良い食品・料理」を楽しむことが、バランスの良い食生活を送るポイントになります。

バランスよく食べるポイント

透析患者さんにとって重要な栄養 1)2)3)

透析患者さんの食事療法で大切なのは、必要十分なエネルギーと適切な量のたんぱく質を摂りながら、リン・カリウム・食塩・水分の摂取量を抑えることです。

表1 血液透析患者の食事療法基準 表1 血液透析患者の食事療法基準
  • 注1体重は基本的に標準体重(BMI=22) を用いる。

  • 注2性別、年齢、合併症、身体活動度により異なる。

  • 注3尿量、身体活動度、体格、栄養状態、透析間体重増加を考慮して適宜調整する。

  • (日本腎臓学会, 2014 より引用)

リン

腎不全ではリンの排泄が低下するため、透析と便で除去できる範囲内でリンを摂ることが大切です。過剰摂取は、血管石灰化(血管が骨のように硬くなる)や二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)の発症・促進につながります。リンはたんぱく質の多い食品に多く含まれています。たんぱく質をしっかり摂りつつ、リンの摂取を抑えるためには、リンの含有量が多い食品(特に骨付きの小魚、卵黄など動物性の食品)を控えます。

また、リンには食品由来の「有機リン」と、食品加工の際に添加される「無機リン」があります。「無機リン」は腸管で吸収されやすいので、特に注意が必要です。無機リンを多く含む食品添加物を少なくするため、加工食品やファーストフード、清涼飲料水も控えるよう注意が必要です。

カリウム

腎臓の機能が正常な場合、カリウムは尿中に排泄されますが、腎不全の場合は排泄されず高カリウム血症が起こります。透析患者さんにおける高カリウム血症は、不整脈などの合併症につながるため、カリウムを摂りすぎないようにしましょう。カリウムはすべての食品に含まれており、緑黄色野菜やいも類、海藻、果物、特に干し柿などのドライフルーツに多い特徴があります。また、見落とされがちですが、たんぱく質食品である肉や魚にも多く含まれています。

食塩・水分

透析患者さんはナトリウムの排泄ができないため、食塩を過剰に摂取すると心臓や血管に負担をかけ、むくみや高血圧の原因になります。また、血漿浸透圧が高くなることで口の渇きが強くなり、水分摂取量が増えます。血管内水分の増加から体液が増えて血圧のコントロールも不良になるほか、血液透析での除水量が増えるため、透析中の血圧低下にもつながります。

食塩と水分は一体として考え、管理する必要があります。食塩は漬物や干物、塩蔵品に加え、調味料に含まれる塩分にも注意しましょう。水分は、飲水量だけでなく果物やおかゆ、豆腐などの食品にも多いため、摂り過ぎないようにしましょう。

たんぱく質

人間の体は、水分を除くほとんどがたんぱく質で構成されています。たんぱく質は、透析によってアミノ酸の形で失われますが、不足すると貧血やむくみの原因にもなるため、適量を摂取するようにします。

一方、過剰摂取はリン・カリウム・飽和脂肪酸の過剰につながり、二次性副甲状腺機能亢進症や脂質異常症などの合併症を起こす可能性があります。たんぱく質は、肉や魚介・卵・乳製品・大豆製品に多く含まれています。過不足がないよう、適量の摂取を続けることが重要です。

エネルギー

人間は、体温を維持したり、呼吸、血液循環など生命を維持するために、体を動かさない状態でもエネルギーが必要です。さらに運動や仕事など社会生活を営むために、また、体力や抵抗力(免疫力)を付けるために適切なエネルギー摂取が重要です。

エネルギーの摂り過ぎは脂質異常症や動脈硬化などの合併症を引き起こす原因となります。一方、特に高齢者では活動量の低下が低栄養につながるため、近年ではサルコペニアやフレイルの予防も重視されています。適正なエネルギー量は、個人の性別や年齢、生活活動強度によって異なるため、これらを考慮して設定することが大切です。

エネルギーとなる栄養素は、糖質と脂質です。糖質は穀類やいも類、砂糖・菓子類に多く含まれます。脂質は、バターや牛・豚の脂などの「飽和脂肪酸」や、植物油や魚介類に含まれる「不飽和脂肪酸」に多く含まれています。

栄養管理の上で考慮すること
  • 参考文献・HP

  • 1)小川洋史 岡山ミサ子 宮下美子 監修:透析ハンドブック, 第5版, 医学書院, 2018

  • 2)上月正博 編著:腎臓リハビリテーション, 第2版, 医歯薬出版, 2018

  • 3)中元秀友 監修:これまでがワカる。これからがカワる。透析療法最前線, 東京医学社, 2018

2023年10月作成
PSV-Z132B

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