スタッフのための透析マガジン 透析イロハ 透析イロハVol6

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ココに注意!透析患者さんの食事管理

ココに注意!透析患者さんの食事管理

透析患者さんの食事管理は、3つのポイントに注目して、栄養トラブルを防ぎましょう。

透析患者さんは、リンやカリウム、塩分などの摂取量に特に注意する必要があります。摂り過ぎると合併症などにつながりますが、一方で制限し過ぎることにより問題を招く場合もあります。また、患者さん自身がこれまで続けてきた食習慣でも、透析治療の上で良くない影響がある場合は見直しが必要です。

栄養面で問題になりやすい3つのポイント

 

point1 摂取制限による影響

低栄養

透析患者さんは、食事制限をはじめ、透析による栄養素の除去やエネルギー消費量の増加、尿毒症や透析後の疲労による食欲低下などが原因で、低栄養やエネルギー不足になることがあります。特に高齢の患者さんでは、食事量そのものが減ってくるため、サルコペニアやフレイルにもつながりやすくなります。

必要なエネルギー量は性別や年齢、合併症、身体活動量などによって個人差があるため、ドライウェイトの変化を観察しながら、必要に応じて食事量の調整が必要です。また、エネルギー摂取量とともに、体をつくる主な成分であるたんぱく質の不足も考えられます。栄養状態を維持するためにも、たんぱく質の適切な量の摂取は重要です。

サルコペニア…加齢や病気、運動不足などによって筋肉量や筋力・身体機能が低下すること。フレイル…サルコペニアなどを経て、生活機能が全般的に低下した状態。

骨折

一般的な健常人と比べ、透析患者さんは骨の強度が低下し、骨折しやすくなります。透析患者さんに特徴的な、二次性副甲状腺機能亢進症による副甲状腺ホルモン(PTH)の過剰分泌がもたらす線維性骨炎や、ビタミンD不足による骨軟化症などに加え、一般的な骨粗鬆症も併せて起こります。その他、栄養障害や高齢、運動不足や筋力低下に伴う転倒リスクも骨折リスクの一因になります。

便秘

便秘は多くの透析患者さんが悩む症状です。さまざまな原因があり、複数の原因が重なっていることもあります。食事では、カリウムの制限によって野菜や海藻類を、またリンの制限によって乳製品や豆類を十分に摂取できず、食物繊維が不足します。また果物の摂取量が低下し、ペクチン不足やビタミンB群を含む食品の摂取量が低下してパントテン酸不足になることも、便秘に影響を与えます。低栄養は筋力(腹圧)低下にもつながり、排便が困難になります。さらに、水分制限で腸内の水分が不足するため便が硬くなり、腸管内の便の移動がスムーズではなくなります。

ストレス

体重の増加量が多かったり、カリウムやリンの数値が悪化すると、食事制限が必要になります。「食べてはいけない」というストレスが生まれ、食欲減退につながることもあります。

 

point2 過剰摂取による影響

各栄養素の体への影響

リン・カリウム・塩分をはじめ、食事の摂取量が多すぎると、体へのさまざまな悪影響があります。

● リン … 
高リン血症・二次性副甲状腺機能亢進症(骨や関節の痛み、筋力低下、皮膚のかゆみ、動脈硬化など)
● カリウム … 
高カリウム血症(しびれやだるさ、胸が苦しい、不整脈など)
● 塩分(水分) … 
むくみ・血圧上昇・体重増加
● たんぱく質 … 
脂質異常症や動脈硬化・二次性副甲状腺機能亢進症
● エネルギー … 
脂質異常症や動脈硬化・肥満

サルコペニア肥満4)

加齢や病気、運動不足などの理由によって筋肉量や筋力・身体機能が低下することを、サルコペニアといいます。筋肉の量が減って体の機能が低下した状態に、肥満(または体脂肪の増加)が加わったものを「サルコペニア肥満」と呼びます。血糖コントロールが難しくなり、糖尿病や脂質異常症などのリスクが高くなる他、転倒・骨折のリスクが上昇したり日常生活の動作が困難になります。エネルギー制限やたんぱく質の摂取量の見直し、筋力トレーニングなどを継続して行うことが必要です。

 

point3 食習慣や環境などによる影響

偏食

栄養状態の良否は、健康状態や体力、生命予後を大きく左右します。健康を維持・増進するためにも、偏食をせずにバランスの良い食事をすることが大切です。主食とたんぱく質の多い食品(主菜)、野菜(副菜)を組み合わせて、1日にさまざまな種類の食品を摂るように心がけます。

外食

外食や旅行時の食事は、全体量が多くなりがちです。そのため、特にリン・カリウム・食塩の摂り過ぎに注意が必要です。1食分で1日分の食塩量になる場合や、調理済み食品や加工食品に添加物としてのリンが多く含まれているなど、気付かないうちに摂り過ぎていることもあるため、料理を選んだり食べる量を減らす工夫が大切です。

嗜好品

アルコールやコーヒー、清涼飲料水などの嗜好品も、成分や水分量に留意しましょう。例えば黒ビールや赤ワイン、トマトジュースはカリウムが多く含まれているため、高カリウム血症の人は避けた方が良いでしょう。合併症によっては、禁酒が必要な場合もあります。

味覚異常6)

透析患者さんは、味覚が乏しくなる場合があります。一般的な味覚障害の原因は、腎不全や糖尿病、亜鉛欠乏、内服薬の影響などさまざまですが、透析患者さんの場合は、慢性腎不全の病態と透析療法により直接生じる体内環境の変化、唾液分泌量の低下、末梢神経障害などが複雑に関与していると考えられます。味覚の中でも塩味や酸味は、透析直後の食事では感じやすくなり、塩味は高温よりも低温の方が濃く感じるので、食べるタイミングや温度を工夫すると、満足感が得られやすくなるでしょう。

  • 参考文献・HP

  • 1)小川洋史 岡山ミサ子 宮下美子 監修:透析ハンドブック, 第5版, 医学書院, 2018

  • 2)透析ケア, 第25巻5号, メディカ出版, 2019

  • 3)上月正博 編著:腎臓リハビリテーション, 第2版, 医歯薬出版, 2018

  • 4)サルコペニア診療ガイドライン 2017年版のCQとステートメント , 日本サルコペニア・フレイル学会 http://jssf.umin.jp/jssf_guideline2017.html

  • 5)透析ケア, 第25巻9号, メディカ出版, 2019

  • 6)斉藤裕, 慢性腎不全透析療法患者の味覚障害に関する臨床的検討, 日本口腔科学会雑誌, 37(1), 1988

2022年5月作成
PSV-Z135A

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