作成日:2023年5月

 
集合写真
知るシリーズ腎臓リハビリテーション

岡山県倉敷市の医療法人創和会しげい病院は、1968年にキール型透析装置を導入して岡山県で最初に透析医療を始めました。また透析患者さんに腎臓リハビリテーション(以下、腎臓リハビリ)をいち早く提供し、患者さんが自立した生活を続けられるよう尽力しています。

今回は、院長の有元克彦先生を中心に、腎臓リハビリに関わる多職種の皆さんにお集まりいただき、その目的や内容について、それぞれの立場からお話を伺いました。

地域包括ケアシステムへの貢献、腎臓リハビリにも注力

有元先生(しげい病院 院長)

有元先生(しげい病院 院長)当院は同時透析124床の血液浄化療法センターを備え、外来・入院合わせて約320人に透析医療を提供しています(2023年1月現在)。また腎・透析医療に注力すると同時に、近隣の倉敷中央病院と連携し、主にポストアキュート機能を果たすケアミックス型病院として回復期から在宅まで地域包括ケアシステムの一環を担い、地域のニーズに応えるよう努力しています。2022年4月の診療報酬改定で透析時運動指導等加算が新たに設定されましたが、透析患者さんのフレイルやサルコペニアの進行を防ぎADLやQOLの向上を図るため、当院ではいち早く腎臓リハビリに積極的に取り組んできました。現在は14名の腎臓リハビリテーション指導士を中心に血液浄化療法センターとリハビリセンターが連携し、管理栄養士や臨床工学技士も加わった多職種のチームで腎臓リハビリに取り組んでいます。

 

透析中の運動指導に係る評価の新設

「令和4年度診療報酬改定の概要」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000912336.pdf

保存期からの運動療法で、ADLやQOLの維持を目指す

清水さん(理学療法士)

清水さん(理学療法士)透析医療が必要となる前の保存期CKD(chronic kidney disease:慢性腎臓病)から運動療法を開始するのが当院の特徴のひとつです。理学療法士がCKD外来を初めて受診した患者さんと面談を行い、日頃の運動習慣の有無などを確認し、身体機能の評価が必要な患者さんは次回の外来受診で体力測定を行います。測定内容は糖尿病外来とCKD外来および透析外来で共通の評価項目で実施しており、診療科が変わっても患者さんの経過を追えるようにしています。体力測定の結果ADL維持のためのアプローチが必要と判定された患者さんに対して、理学療法士と健康運動指導士が介入し運動指導を行います。現在の体力や適切な運動強度がどのくらいかを説明し、活動量計の貸し出しや運動記録用紙の提供を行い、運動に取り組めるよう促しています。理学療法士は患者さんの身体機能を最も理解している職種として、患者さんが十分かつ適切な運動療法を行うことで自立した生活を続けられるよう支援しています。保存期CKDから運動療法を始めることで、透析に移行したとしてもADLやQOLを維持しやすくなります。

別府さん(健康運動指導士)

別府さん(健康運動指導士)まずは患者さんが“できていること”に着目します。エレベーターを使わずに階段を使うなど、ご本人が運動と捉えずに実践していることがあれば『運動できていますね』と肯定的な声かけをしています。提出された運動記録にはコメントを記入して返却するなど、コミュニケーションを重視して、運動を継続する意欲を高められるように心掛けています。

透析スタッフとリハビリスタッフが連携し透析中の運動療法に取り組む

小野さん(看護師)

小野さん(看護師)透析患者さんが透析中にベッド上で行う運動にも力を入れています。血液浄化療法センターの看護師と臨床工学技士が、患者さんの歩行の様子を観察したり、日常生活の状況を尋ねたりして、運動療法の対象となる患者さんを選定します。医師と情報を共有して運動の可否や強度について確認後、理学療法士に介入を依頼します。初回介入時には理学療法士が血液浄化療法センターに出向き、運動療法の内容を検討し指導を行います。2回目からは看護師と臨床工学技士が運動療法の見守りやサポートを行います。

別府さん運動療法としては、ボール運動や、運動内容を撮影したDVDを見ながらのベッド上運動、転倒予防体操を行っており、体力測定の結果や認知機能などによってどの運動療法を行うかを決めます。認知機能の低下がなく運動療法の説明が理解できる場合はDVDを見ながらのベッド上運動を、理解が難しい方にはボール運動を選択します。また、転倒の既往が多い方や歩行時につまずきやすい方は転倒予防体操を行います。いずれの運動療法も足首の曲げ伸ばしや膝の曲げ伸ばしなど、ベッドに横になったままできる運動です(写真①②)。

【写真①】透析中の運動(負荷軽度)

【写真①】透析中の運動(負荷軽度)

足首の曲げ伸ばし(10回)

【写真②】透析中の運動(負荷中等度)

【写真②】透析中の運動(負荷軽度)

お尻上げ(10回)

小野さん運動療法は、医療者側からの一方的な押しつけではなく、患者さんが主体的に取り組めることを重視しています。患者さんとそのご家族がどのような生活をしていて、どうなりたいのか、どういったことを大切にしているかということを理解することがポイントです。その上で、リハビリを行う意味を患者さんも理解し納得して取り組めているのかを確認し、検査結果などに運動の効果が見られたらしっかり伝えるようにしています。

多職種のアプローチで取り組む腎臓リハビリ

谷川さん(臨床工学技士)

谷川さん(臨床工学技士)臨床工学技士は透析装置の操作などの機器管理に加えて患者さんとのコミュニケーションの中で生活状況などの情報収集を行い、看護師と情報を共有して必要に応じて他職種につなげる役割を担っています。腎臓リハビリとしては、運動療法のサポートのほか、透析中にEMS(electrical muscle stimulation)を行っています。EMSは血管周辺の筋肉に電気刺激を与えて血行を促進することでシャントの長期開存が期待できます。シャントが狭窄・閉塞した場合に行う経皮的血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty:PTA)は患者さんにとって精神的・肉体的に苦痛を伴うため、できる限りPTAに至るまでの期間を延ばすことは患者さんのQOL向上につながります。PTAの間隔が延びた患者さんはとても喜ばれるので、電気刺激の強さなどを工夫しながらより良い効果を得られるよう日々研鑽しています。残念ながら透析時運動指導等加算の算定要件には臨床工学技士の介入は含まれていませんが、私たちならではの技術で腎臓リハビリに貢献しています。

石原さん(管理栄養士)

石原さん(管理栄養士)透析患者さんにとっては栄養管理も非常に重要です。当院では管理栄養士が月1回程度栄養指導を行っています。透析患者さんはご自分の病気と長く付き合っていますので、食事療法の必要性や栄養素についての基礎的な知識を持ち合わせている方も多く、食事制限を主とした教育よりもサルコペニアやフレイルにつながる低栄養を防ぐ目的で指導が必要となる場合が多いです。特に透析患者さんでは服薬などの影響で味覚異常があったり、透析日に食事回数を減らしたりすることから、どうしても食事摂取量が減ってしまう傾向にあるので、その点に注意をはらっています。前回の指導から1ヵ月間の変化を把握して食事や生活について聞き取り、血清アルブミン値などで栄養状態を評価して、まずは食事摂取量の確保のために実現可能な方法を患者さんに合わせて指導します。摂取量が確保できるようになれば、次のステップとして適切な食事内容に変更する指導を行って、栄養状態の維持を目指します。必要に応じて、ご家族や、入居施設の栄養士や介護士、ケアマネジャーなどと連絡を取って栄養改善を図っています。

小野さん血液浄化療法センターのスタッフとリハビリスタッフと管理栄養士でカンファレンスを行い、患者さんの指導や支援に生かしています。例えば大きな手術後に体力が低下した症例についてカンファレンスで状況を共有して解決策を議論した結果、透析中の運動だけではなく自宅で行う運動について指導するとともに、独居であったため当院で調理し販売している透析患者さん用のお弁当を活用して栄養改善を図りました。その結果、患者さんの体力は順調に回復しました。次の手術時にはこの時の経験を生かして取り組んだことで、体力が低下することはありませんでした。多種職がそれぞれの専門性を発揮しながら連携したことが良い結果につながった症例だと思います。

別府さん多種職が声かけをしながらリハビリを提供することで、患者さんが「体力が向上しているから今後も運動を続けていきたい」と意欲を見せたり、散歩を積極的に行ったことをスタッフに報告したりするなど、運動への意識が向上し、歩行への不安が解消され、自信をつけた患者さんもいます。このような患者さんを経験することで、私たちもやりがいを感じることができています。

有元先生保存期のCKD診療では患者さんが歩いて診察室に入ってくるところを見ることができるのですが、透析患者さんではベッドに寝ている姿しか見る機会がなく、たまに歩いている姿を見て「こんなに歩行能力が低下していたのか!」と愕然とすることがあります。様々な職種の方から普段の様子を聞くことはとても大切で、そこにも多職種連携の意義があると感じています。

患者さんが自分の足で最後まで通院できるために

有元先生人工透析は生涯続ける治療であり、患者さんにとっては生活の一部であるという視点を持つことが重要です。わが国の透析医療は世界一の治療成績を誇っていますが、透析医療について偏見や誤解があるのも事実です。患者さんや医療者が協力して啓発活動に取り組み正しい知識を広めることも大切です。またより良い透析生活のためには保存期CKDの治療管理が重要になります。

 自分の足で通院する、自分の足で最後まで生活できるということはとても大切なことだと考えています。かつては自力で通院できないため長期入院して透析を受けている患者さんも少なくありませんでした。しかし、人工透析を受けるようになっても住み慣れた地域で自分らしい生活を少しでも長く続けていただきたい。そのためにも腎臓リハビリに力を入れていきたいと思っています。

医療法人創和会 しげい病院 院長 血液浄化療法センター長 有元 克彦 先生

医療法人創和会 しげい病院
院長 血液浄化療法センター長
有元 克彦 先生

医療法人創和会 しげい病院 理学療法士 清水 賢児さん

医療法人創和会 しげい病院
理学療法士
清水 賢児さん

医療法人創和会 しげい病院 健康運動指導士 別府 貴代さん 慎一郎 先生(腎臓病療養指導士)

医療法人創和会 しげい病院
健康運動指導士
別府 貴代さん

医療法人創和会 しげい病院 看護師 小野 由美さん

医療法人創和会 しげい病院
看護師
小野 由美さん

医療法人創和会 しげい病院 臨床工学技士 谷川 和音さん

医療法人創和会 しげい病院
臨床工学技士
谷川 和音さん

医療法人創和会 しげい病院 管理栄養士 石原 彩華さん

医療法人創和会 しげい病院
管理栄養士
石原 彩華さん

※本記事に掲載している情報や所属、役職等は取材時点のものです。

取材日:2023年1月30日

【本記事に関する内容は、取材に基づいたものであり、特定の事柄をアドバイスしたり推奨する事を目的としておりません。
また閲覧者が当記事の記載事項を意思決定や行動の根拠にしたとしても、当社は責任を負いかねますのでご留意ください。】