作成日:2024年2月

 
聞くシリーズ 専門資格者の取り組み

透析専門病院で臨床工学科の科長として後進の指導に尽力し、さらに一般社団法人大阪府臨床工学技士会の会長も務める小北克也先生に、透析医療を担ううえでの臨床工学技士の役割とやりがい、今後の課題、臨床工学技士という職業の将来などについて、お話をうかがいました。

特定医療法人仁真会 白鷺病院
医療技術部 臨床工学科 科長・臨床工学技士
小北 克也 先生

Q

貴院の透析治療の特徴について教えてください。

A

白鷺病院(以下、当院)は透析医療を中心とした、腎・尿路系疾患の専門病院です。外来透析のほか、血液透析における命綱となる血管シャントの治療、内科・外科・泌尿器科の診療、前立腺肥大症や腎・尿路系の結石や腫瘍の検査、手術を行う体制を整えています。また、特定医療法人仁真会として、当院のほかに外来透析を専門とする5施設の診療所・クリニックを設置・運営しています。

仁真会の専門医療機関としての使命は、患者さんの病状はもちろん、ライフスタイルにあわせた多様な透析治療を提供することです。透析は、1回につき4時間以上を要する治療を少なくとも週に3回行う必要があり、このことが患者さんの大きな負担となっています。当院では午前帯、午後帯のほかに、現役世代の患者さんのために、23時までの準夜帯透析やオーバーナイト透析を行っています。透析種別としては血液透析、血液濾過透析、さらに在宅での血液透析や腹膜透析の導入など、患者さんの希望に応じた透析治療の提供が出来るようにしています。

当院以外の診療所とクリニックでは、オーバーナイト透析は行っていませんが、施設ごとに午前帯と午後帯、準夜帯の開始時刻に柔軟性を持たせることで、患者さんの生活への支障を少なくできるよう配慮しています。仁真会6施設のうち5施設が大阪市南部エリアに立地していますので、当院で朝8時開始の透析を受けていた方が、ライフスタイルの変化を理由に10時半開始の枠があるクリニックに移るなど、仁真会のなかで通院先を変更される患者さんも少なくありません。

Q

貴院において臨床工学技士はどのような役割を果たしていますか?

A

入院病床92床、外来患者数110名の当院では、医師25名、看護師230名が勤務しています。その他の医療職が所属する医療技術部のスタッフが120名で、そのうち臨床工学技士は12名です。仁真会全体でみると960名の患者さんに対して63名の臨床工学技士を配置しています。

臨床工学技士は、医療現場で用いられる生命維持管理装置やさまざまな医療機器の操作と保守点検を行うプロフェッショナルです。当院のように透析治療を主とする医療施設では透析装置、薬剤投与に用いるシリンジポンプ、輸液ポンプ、心電図モニター、AEDなどを扱います。当院は入院病棟や手術室もありますので、麻酔に用いる装置や電気メス、人工呼吸器なども担当します。

総合病院に比べれば扱う装置の種類は少ないのですが、同じ透析装置でも導入時期によって機能や操作性が異なり、それぞれの装置の癖なども把握しています。透析治療中に不具合が生じたり、予定していた透析ができなくなったりすると、患者さんの生命に関わりますので、すべての装置を安全に、安定的に稼働させることは、私たちの重要な使命です。具体的な業務としては、日々の透析治療で使う装置の稼働前と稼働後の点検、動作中のチェック、それぞれの装置の状態にあわせた部品などの交換に加えて、年に2回、外来透析を行っていない日曜日に臨床工学技士が全員出勤して、すべての装置のオーバーホールとメンテナンスを行っています。

 

仁真会 透析室 業務分担項目

仁真会 透析室 業務分担項目

小北先生ご提供資料を基に作図

Q

機器を担当するお仕事ということは、患者さんと接することは少ないのでしょうか?

A

いいえ。資格名に「臨床」という言葉がついているとおり、臨床の現場でもさまざまな役割を果たしています。まず、透析治療では臨床工学技士が穿刺を行うことが許されており、当院では看護師と同じくらいの頻度で臨床工学技士が透析開始時の穿刺を行っています。

また、透析装置の稼働中はほとんど透析室に滞在していますので、看護師と連携して患者さんの体調やバイタルの確認と対応を行っています。透析中の患者さんと対話することも多く、そのなかで日々の悩みごとや生活状況を聞き取り、必要に応じて医学的な指導も行います。

さらに当院では、それぞれの患者さんの透析条件の設定について医師に提案することも、臨床工学技士の重要な役割となっています。標準的な血液透析では1分間に200mLの血液を取り出して、体外の装置で濾過した後、再び患者さんの身体に戻しますが、この標準的な設定では治療効果が不十分な患者さんもおられるため、年に4回、透析の前後に採血を行って透析効果を確認し、ダイアライザー(人工透析器)の種類や大きさ、透析の量や時間などの調整を行うことになっています。透析条件の決定は医師の業務ですが、臨床工学技士は装置のプロであり、さらに透析中の患者さんの様子を看護師とともに観察している立場から、提案を行えるだけの知見と情報を持っているのです。またCaやP、PTHなどの検査値も定期的に確認し、患者さんの食事や内服薬の服用状況などについて聞き取りを行い、必要な対応などについて医師に提案することもあります。ほとんどの場合、医師も私たちの意見を尊重してくれます。

Q

やりがいを感じるのはどのようなときですか?

A

透析患者さんが抱えがちな身体のかゆみや痛み、透析中の苦痛や不快感なども、透析条件の変更によって改善できることがあります。臨床工学技士は医師と比べて透析室で勤務する時間が多く、患者さんとコミュニケーションする時間が長いため、患者さんの本音を聞き取り、透析条件の設定に反映させることができます。透析治療は生涯にわたって継続する必要がありますから、透析による苦痛を小さくすることは、患者さんのQOLの大きな向上につながります。

臨床工学技士とは、一人ひとりの患者さんと向き合ったうえで、装置を適切に安全に稼働させる仕事なのです。自分の提案で患者さんの状態がよくなったときなどは、大きなやりがいを感じますね。

 
Q

総合病院などでの臨床工学技士の仕事内容についても教えてください。

A

私自身はずっと当院に勤務しているので実体験ではありませんが、救急や急性期医療が中心となる総合病院の場合、当院よりも多様な装置を扱うことになります。透析は慢性疾患なので患者さんと顔なじみになり色々なお話をすることができますが、緊急性の高い現場では臨床工学技士が患者さんと対話することはまれですし、そもそもお話ができる状態ではないことも多いでしょう。緊迫感、スピード感も異なると思います。

また、当院でも休日や夜間に緊急透析を行う場合、臨床工学技士がオンコールで呼び出されるため、総合病院では呼び出しも多くなるようです。ですから、若いうちは総合病院に勤めていて、家族ができたのを機に透析専門クリニックに転職したという人も珍しくありません。

Q

臨床工学技士をめざしたきっかけを教えてください。

A

臨床工学技士は1987年に制定された国家資格ですが、当時専門学校を紹介する雑誌で臨床工学技士という仕事を知りました。医療の世界でこれから活躍の場が広がる新しい資格であるところに魅力を感じ、看護師だった母から医療系の仕事を勧められたこともあって、養成学校に進みました。私が4期生だったと思います。学校の授業はほとんどが理系科目で、元々文系だった自分はかなり苦労して、やっとのことで卒業できたという感じでした。学校の最終年度(3年生)に実習させてもらったのが当院でした。そのときに指導してくださったのが、看護師と臨床工学技士のダブルライセンスを持つ優秀な先輩で、積極的にベッドサイドに行って患者さんとコミュニケーションをとり、医師からも患者さんからも信頼されていました。今の私からみても、臨床工学技士の理想像といえるような先輩に出会えたことで、前向きな気持ちでキャリアをスタートすることができました。

Q

チーム医療の重要性、医師のタスクシフトの必要性が言われるなかで、臨床工学技士という資格の将来をどのように考えておられますか?

A

私が臨床工学技士になったばかりの頃と比べると、医療現場で使われる装置の種類や数は大きく増加しました。今後もさらに新しい機器が開発されていくでしょう。臨床工学技士の果たす役割はますます重要になると期待したいところです。しかし、臨床工学技士という資格の将来が安泰というわけではないと考えています。

最近の装置は、操作性が向上して専門的な知識がなくても扱えるものも少なくありません。透析装置などは自己診断機能が搭載されていて、部品交換を促したり、故障する前にアラートを発したりします。装置の機能が向上することで、臨床工学技士の仕事が減ってしまうかもしれません。

当院のような透析治療が中心のクリニックでは、先ほどお話しした医師に対する透析条件の提案に加えて、看護師の担当業務を、許されている範囲で積極的に臨床工学技士が分担するべきだと考えています。さらに、手術室でも装置の点検だけでなく、看護師が担っている業務の一部を臨床工学技士が担当できれば、チーム医療の柔軟性を高めることに貢献できると考えています。

チーム医療の質を向上し、医師のタスクシフトをサポートし、臨床工学技士という職業の将来性を守るためにも、業務の幅を広げることが重要なのです。

 

法令改正により追加された臨床工学技士の新たな業務範囲

生命維持管理装置を用いた治療において当該治療に関連する医療用の装置(生命維持管理装置を除く)の操作(当該医療用の装置の先端部の身体への接続又は身体からの除去を含む)

① 手術室又は集中治療室で生命維持管理装置を用いて行う治療における静脈路への輸液ポンプ又はシリンジポンプの接続、薬剤を投与するための当該輸液ポンプ又は当該シリンジポンプの操作並びに当該薬剤の投与が終了した後の抜針及び止血(輸液ポンプ又はシリンジポンプを静脈路に接続するために静脈路を確保する行為についても、「静脈路への輸液ポンプ又はシリンジポンプの接続」に含まれる)

② 生命維持管理装置を用いて行う心臓又は血管に係るカテーテル治療における身体に電気的刺激を負荷するための装置の操作

③ 手術室で生命維持管理装置を用いて行う鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラの保持及び手術野に対する視野を確保するための当該内視鏡用ビデオカメラの操作

厚生労働省「臨床検査技師等に関する法律施行令の一部を改正する政令等の公布について」(令和3年7月9日医政発0709第7号)より引用・改変

血液浄化装置の穿刺針その他の先端部の表在化された動脈若しくは表在静脈への接続又は表在化された動脈若しくは表在静脈からの除去

※従来の業務範囲であった「シャントへの接続又はシャントからの除去」に追加

厚生労働省「臨床工学技士法施行令の一部を改正する政令」(令和3年政令第203号)より引用・改変

Q

これから臨床工学技士をめざす方々に向けてメッセージをお願いします。

A

ここまでお話ししてきた内容から、理解してもらえると思いますが、臨床工学技士は医療機器だけを担当する仕事ではありません。医師や看護師など、チーム医療に関わるメンバー、そして、患者さんとのコミュニケーションがとても大切な仕事です。

さらに、臨床工学技士としてよい仕事をするためには、医学・医療の知識が必要となる場面が多くあります。学校で医学系の授業を受けますが、現場に出るとまったく知識が足りないと実感することになるでしょう。医師や看護師に頼ってばかりはいられませんし、どのような施設で働くかによって求められる知識は違ってきます。臨床工学技士として働き始めてからも、あらゆる機会をとらえて、学び続けてほしいと思います。

※本記事に掲載している情報や所属、役職等は取材時点のものです。

取材日:2023年11月2日

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