聞くシリーズ 専門資格者の取り組み

2022年4月に誕生した資格「パーキンソン病療養指導士」を取得して活躍されている菅久美先生に、パーキンソン病診療での多職種連携、看護師の役割、パーキンソン病療養指導士のやりがいなどについてお話を伺いました。

独立行政法人 国立病院機構 仙台西多賀病院
看護師長、パーキンソン病療養指導士
菅 久美 先生

Q

貴院のパーキンソン病診療の特徴について教えてください。

A

仙台西多賀病院(以下、当院)は、パーキンソン病を専門とする医療機関が少ない地域にあり、院長が中心となってパーキンソン病診療に積極的に取り組んでいました。高齢化に伴いパーキンソン病患者さんが増加傾向にあるなか、さらにパーキンソン病診療に力を入れるために2020年7月にパーキンソン病センター(以下、当センター)を開設しました。

当センターでは、パーキンソン病を専門とする医師による早期の診断、専門外来や入院での治療を行っています。脳神経内科だけではなく脳神経外科も診療に加わり、脳深部刺激療法(DBS)をできる体制も整えました。当院は総合病院ではないため消化器内科などはありませんが、必要に応じて国立病院機構の他病院などと連携しながら、多職種でチームを作り、早期から進行期まで総合的に診療を行っています。

また、パーキンソン病診療ではリハビリテーション(以下、リハビリ)も重要であることから、入院によるリハビリの提供や、在宅でリハビリを続けるための患者さんやご家族への指導にも力を入れています。入院中のリハビリは毎日行っており、土日であってもスタッフが交代で実施しています。

当センターの患者さんは、パーキンソン病・パーキンソン病認知症のほか進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、レビー小体型認知症などパーキンソン症候群の方も多く、70代が5割、80代が3割と、高齢者の占める割合が高くなっています。神経難病を専門とする医療機関が少ないため、県外からの紹介も受け入れています。

Q

パーキンソン病診療ではどのように多職種連携をしていますか?

A

医師、看護師のほか、医療ソーシャルワーカー、薬剤師などが連携し、入院患者さんには入院前の外来時から入退院支援看護師が支援しています。

リハビリ科には、LSVT®BIGの認定療法士を取得した理学療法士3名と作業療法士1名、LSVT®LOUDの認定療法士を取得した言語聴覚士が1名在籍しており、パーキンソン病に特化したリハビリプログラムを行っています。

また、パーキンソン病の患者さんは嚥下障害が起こりやすいため、栄養士と情報共有をして食事形態を考えたり、他医療機関の嚥下障害専門の耳鼻科医と連携して日本嚥下医学会の基準に沿った対応をしたりしています。

患者さんに骨折などがあれば、整形外科が介入します。リハビリなどを目的に入院してきた患者さんが痛みを訴えたため検査をしてみると、入院前に骨折していたとわかることもあります。その場合も整形外科と連携し、パーキンソン病の薬剤調整をしながら骨折の治療を行っていきます。

 
Q

パーキンソン病診療における看護師の役割についてお聞かせください。

A

パーキンソン病の患者さんは、精神的にうつ傾向だったり落ち込んだり幻覚が見えたりと多彩な症状を示す疾患です。またオンのときには患者さんも自分なりに思うように動けるのですが、オンの時間が短いと、自分で思うように動けないとか、転倒を繰り返してしまうなど、時間によって症状の変化が見られます。こうした症状を把握することが看護師の大きな役割だと考えています。そのために「症状日誌」を活用しています。

パーキンソン病 症状日誌はこちらから

症状日誌はこちらから

 
Q

症状日誌の活用について具体的にお聞かせいただけますか。

A

症状日誌には体がスムーズに動く時間、動きにくい時間などの特徴的な症状経過や気持ちの変化などを記録していただいています。そこで患者さんの想いだとか起きにくさ、気分の浮き沈みといった情報を細かく把握していきます。薬剤調整で精神症状や運動症状というのはある程度改善できるものなので、そうした情報は先生の方に情報提供をします。また患者さんの調子が悪いときにはリハビリの先生とも相談して、『メニューを変えようか』、『今日は足踏みだけにしようか』という風に、なるべく患者さんの想いや状況に寄り添って診療を進めていくことを大切にしています。

パーキンソン病 症状日誌記入例

症状日誌記入例

Q

パーキンソン病療養指導士を目指したきっかけを教えてください。

A

パーキンソン病療養指導士は、日本パーキンソン病・運動障害疾患学会が認定している資格で、看護師や薬剤師、理学療法士など、パーキンソン病の診療・介護に携わっている医療・介護従事者が取得できます。私は、7年前に急性期の病院から当院に転勤し、脳神経内科病棟に配置されてパーキンソン病患者さんやご家族に関わり始めました。その中で、医療従事者側が想像している“困りごと”と実際に患者さんやご家族が困っていることには違いがあるとわかりました。例えば、食事が摂れなくて困っている患者さんがいたとき、私たちは運動症状によるものだと考えがちです。しかし実際は、お皿の模様が虫に見えるといったような精神症状が原因である場合があります。また、患者さん自身が症状に困っていなくても、ご家族がパーキンソン病特有の行動に驚いて戸惑っていることもあります。受診時は患者さんご本人がいるために医師に相談できず、悩みを抱え込んでしまう傾向があります。そのため、ご本人がいないところでご家族のお話を伺い、医師に報告することもあります。

このような経験から、パーキンソン病に関する高度な知識を得ることで、患者さんやご家族に対してもっと貢献できるのではないかと考え資格を取得しました。専門性を身に付け、例えばふりかけや食器の模様が虫に見える患者さんには無地の皿を使う、ご家族には「多彩な症状が表れるので心配せずに相談してほしい」と事前にアドバイスするなど、患者さんやご家族の困りごとの解決を図りたいと思いました。

Q

現在、パーキンソン病療養指導士としてどのようなことに力を入れて取り組まれていますか?

A

パーキンソン病療養指導士の資格を取得したのは今年4月なので、本格的な活動はこれからですが、まずは後輩の教育に力を入れています。当院では、院内独自の認定制度を設け、パーキンソン病看護のスペシャリストとして“PDナース”を育成しています。現在4名のPDナースが活動しており、病棟でのリハビリに関わるほか、各病棟で活用の仕方にばらつきのあるパーキンソン病症状日誌の活用法の統一を図っています。PDナースの育成のために研修も定期的に開催しています。研修の中でも、院長やセンター長が講義を行うパーキンソン病の概論などは、PDナースを目指す看護師以外のスタッフも聴講できます。門戸を広げ、さまざまな職種にパーキンソン病についての正しい知識を普及する場としています。

いずれは、パーキンソン病療養指導士として、患者さんやご家族の困りごとに寄り添いながら、患者さんたちから得た情報をもとに多職種に橋渡しをして、適切な診療・ケアに導いていく役割を担っていきたいと思います。

Q

現在のお仕事のやりがいはどんなところにありますか?

A

慢性期看護は、患者さんだけでなくご家族にもじっくり時間をかけて寄り添い、ご本人の立場で考えて支援していくものです。病気と共に歩まなければならない患者さんやご家族の手助けをし、その結果、リハビリの効果が現れたり、症状が改善したりする姿を見られることが慢性期病院の看護師がやりがいを感じる瞬間ではないでしょうか。

パーキンソン病療養指導士を取得した動機のひとつが、パーキンソン病看護のやりがいを他のスタッフに伝えることでした。現在は後進の育成に注力しているため患者さんに直接関わる機会は減っていますが、これまでの取り組みを後輩に伝えることで、自分の経験が教育や臨床の現場に活かせているとうれしく思っています。

Q

今後取り組んでいきたいことを教えてください。

A

当院では早期から進行期のパーキンソン病患者さんに医療を提供しており、終末期は在宅に戻られるのでなければ療養型病院に転院や、福祉施設に入所していただいています。転院や入所にあたり、薬剤の変更や胃ろう造設など、望まない選択をしなければならないご家族の姿を見て、心を痛めてきました。当院が終末期までサポート可能な体制を整えられれば、早期から終末期まであらゆるステージで専門的な医療を提供できます。患者さんやご家族の選択肢も増え、質の高い意思決定支援にもつながると考えています。パーキンソン病療養指導士としては、その実現に向けて、パーキンソン病看護のスペシャリストを育成すると共に、パーキンソン病患者さんと接したことがない看護師も適切な対応のための正しい知識が持てるよう、病態や看護の仕方などの情報を発信していきたいと思います。

Q

パーキンソン病療養指導士を目指す方へメッセージをお願いします。

A

パーキンソン病は多彩な症状が現れる病気です。医療従事者が疾患に関して正しい知識を持ち、患者さんやご家族が疾患の特性を理解できるよう支援していくのが大切だと感じています。また、パーキンソン病療養指導士はQOLの改善・維持のお手伝いをするという重要な役割があります。看護師だけではなく、パーキンソン病のリハビリや介護に携わるさまざまな職種が取得することができる資格ですので、患者さんやご家族に貢献したいと考えていて、興味のある方、パーキンソン病の看護・ケアのレベル向上を目指す方は、ぜひ取得を目指していただきたいと思っています。

 

独立行政法人国立病院機構 仙台西多賀病院 院長 武田 篤先生からのコメント

人口の高齢化に伴いパーキンソン病の有病率は激増を続けております。パーキンソン病は今や一部の専門家だけではなく、専門・非専門にかかわらず多くの職種の医療関係者が連携チームを組んで対応することが求められております。パーキンソン病は運動症状・自律神経症状・感覚症状・精神症状など多彩な症状が患者さんの日常生活の支障になっています。これらの臨床症状を的確に捉え対応できるメディカルスタッフが必要になっており、今後「パーキンソン病療養指導士」が患者さんとそのご家族に寄り添いながらチーム医療の要となって活躍していくことを期待しています。

※本記事に掲載している情報や所属、役職等は取材時点のものです。

取材日:2022年10月4日

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