聞くシリーズ 専門資格者の取り組み

糖尿病専門病院で管理栄養士として活躍される太田清美先生に、糖尿病療養指導を行ううえでの多職種の関わり、管理栄養士の役割ややりがい、地域連携や今後の課題などについてお話を伺いました。

医療法人萬田記念病院 糖尿病センター
管理栄養士、日本糖尿病療養指導士
太田 清美 先生

Q

管理栄養士になられたきっかけや、現在のお仕事の内容などをお聞かせください。

A

私が中学生のころ、好きだった家庭科の先生にすすめられたことがきっかけで栄養士という仕事に興味を持ちました。

栄養士には「栄養士」「管理栄養士」の2種類の資格があります。「栄養士」は都道府県知事免許に基づいた資格で、主に健康な方に対する栄養指導や給食運営に携わります。一方、「管理栄養士」は国家資格であり、健康な方だけでなくご病気を患っておられる方なども対象として、専門知識と技術に基づいた栄養指導や栄養管理、給食の管理を行います1)。私は病気を患っておられる方のお役に立ちたい気持ちが強かったので管理栄養士の道を選択しました。

現在、私は糖尿病専門病院で責任者として管理業務を行いながら、患者さんへの栄養指導や糖尿病教室の講師も行っています。当院で20年近く経験を重ね、糖尿病についての専門性を高めてきましたが、今でもまだまだ勉強が足りないと感じています。患者さんは糖尿病だけでなく、他の疾患を合併される方も多くおられます。なかにはがんなどを患う方もいらっしゃいます。医療が進歩し時代が変わっていくにつれて管理栄養士に求められることも拡大しており、私たちはそれに応えられる実力を身に付けるべく、専門外の分野についても常に学び続ける姿勢が重要だと考えています。

今振り返れば、管理栄養士の資格取得は、あくまでスタート地点だったのだということがよくわかります。当時は資格さえ取れば素晴らしい栄養士になれると思っていたのですが、大切なのは、実際の仕事を通していかに自らの知識や技術をアップデートし続けるかだと実感しています。

Q

貴院の糖尿病療養指導の特徴や、多職種連携の体制について教えてください。

A

当院は入院設備を有する糖尿病専門病院で、専門外のクリニックはもとより、糖尿病専門のクリニックからのご紹介も多く、比較的重症の糖尿病患者さんが多く受診されています。

特徴としては、糖尿病の療養指導を担うメディカルスタッフが取得する資格である日本糖尿病療養指導士(CDEJ)2)の数が北海道で最も多く(2020年現在)、院内のほぼ全部署にCDEJがいることが挙げられます。看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師が資格を取得しており、各自が同レベルで療養指導に関する知識を持っているので、科を超えて多職種連携する際にも互いに相談しやすい環境にあると感じています。例えば栄養士による介入が進まない外来の患者さんへの栄養指導を、外来の看護師から指導するようにお願いして、うまくいったことなどがあります。また私たちが栄養指導のためにカウンセリングを行う中で、患者さんがインスリンの自己注射を同じ場所に打ち続けており、硬結によって効きが悪くなっている可能性に気づいて、医師や看護師にフィードバックしたこともあります。このように院内の連携は状況に合わせて柔軟にとっており、何か相談が必要な問題が発生した際にはすぐに関係する複数の専門職と声をかけあって、医師と相談しながらチームで対応しています。

平日は毎日糖尿病教室を開催している点も、他の施設にはない特徴ではないかと思います。各職種の担当者から糖尿病に関するさまざまな知識や最新情報をお話しており、管理栄養士は毎日40分の講義を担当しています。参加者は入院患者さんが中心ですが、地域の患者さんやご家族が来られることもあります。当院のホームページでプログラムを公開しており、どなたでも自由に、お好きな枠に参加していただいています。

 
Q

糖尿病患者さんに管理栄養士が介入するタイミングや、栄養指導を行う際に重視されていることをお聞かせください。

A

管理栄養士は、多職種からなる医療チームに栄養の専門職として参加し、患者さんの病態に応じた治療食の提供や栄養指導を実践します。基本的には医師の依頼を受けて、血糖値の乱れがあったり、食事の管理に何らかの問題を抱えていたりする患者さんに介入しています。栄養指導では患者さんと一対一で向き合うため、医師による診察では表面化しなかった患者さんの情報や本音を拾えることもあります。

指導の際に私が最も重視しているのは、その方に合わせたアプローチをしていくことです。そのためにはまず、身体的なデータ、生活環境、食事や病気に対する認識などを把握することから始めて、患者さんが食事療法についてまだご存じない方なのか、わかっていても実行が難しい方なのか、大きく分けて考えるようにしています。例えば、患者さんの「過食」が問題となる場合、ポイントとなるのはご本人がご自身の過食に気がついているのかどうかです。「全然食べていないのに体重が増えるんです」という患者さんが実際にはものすごい量を召し上がっており、ご自身は食べている量に自覚がない、または過小評価されているケースがよくあります。この場合は過食に気づいていただくことが第一の目標となり、達成できれば、次なる行動変容へとつながりやすくなります。一方、「食べすぎていることはわかっているのに、どうしても量を減らすことができない」という患者さんの場合は、自覚しているのになぜできないのか、その原因を一緒にひも解いていくカウンセリング技法を用いたアプローチが必要になります。このプロセスがうまく進むか否かは、日ごろから信頼関係が構築できているかどうかが鍵であると思います。

Q

現在のお仕事の「やりがい」はどのようなところにありますか?

A

栄養指導を行っていると、患者さんご本人も気がついていない不調の原因を発見できることがあります。例えば先日、「最近HbA1cの数値が上がってしまい、なぜだかわからない」という患者さんがみえました。食生活について詳しくお話を伺っても原因に該当することはなく、ご本人も心当たりがないとおっしゃっていました。少し視点を変えて「何か体にいいと思って最近始めたことはありますか?」と伺うと、“寒さ対策”としてくず湯を飲み始めていたことがわかりました。ご本人は食事とは思っていらっしゃらないため話題に出なかったのです。試しにそれをやめるようお伝えしたところ、翌月のHbA1c値が改善しました。似たようなケースで、“低血糖対策”としてブドウ糖代わりの甘い飲料を毎日1缶飲み始めていた方もいらっしゃいました。このように、栄養指導によって改善の手応えを感じられた時は、管理栄養士としてやりがいを感じます。

同僚の看護師から「食事療法は1分後からでも実践できる治療、それができる管理栄養士はすごいですね」と言われたことがあります。管理栄養士は薬も注射も使わないけれども、栄養に関する専門知識によって患者さんの健康に働きかけることができる専門職であり、あらためてこの仕事のやりがいを認識することができました。

 
Q

糖尿病の栄養指導で、地域の他の施設などとの連携はされていますか?

A

現在は新型コロナウイルスの影響で実施できていませんが、これまでに、院外施設と連携して患者さん向けの講演会を開催したり、地域のホテルと低カロリーのランチメニューを共同開発して一般の方に提供したり、さらに、入院患者さんのお食事をご家族などに経験していただく「外来予約食」という取り組みなどを行いました。

令和2年度診療報酬改定で、入院中の栄養管理に関する情報を在宅担当医療機関等に提供することが新規に加算の対象となったので3)、今後は地域連携においても、管理栄養士が行っている業務やスキル、栄養管理の重要性が高まっていくのではないかと思います。

Q

今後はどのようなことに取り組んでいきたいとお考えですか?

A

当院を受診される患者さんもご高齢の方が多くなってきたため、今後は嚥下調整食や嚥下指導などにも取り組んでいきたいと考えています。

また、当院では治療成績の向上と将来の糖尿病診療に貢献できるエビデンスを発信するため臨床研究にも力を入れており、私も毎年、学会発表をするよう院長からすすめられています。研究方面にももっと力を入れ、これまで経験してきた症例からの学びを生かすことを課題としたいと思います。

Q

最後に、これから管理栄養士を目指す人、また栄養指導で悩んでいる医療者に対してメッセージをお願いします。

A

糖尿病患者さんに対する栄養指導は1回で完結することは少なく、お互いの信頼関係を丁寧に育て、継続した支援を実践することで初めて成果が得られるものだと思います。そのためには管理栄養士である私たちが患者さんに寄り添う気持ちを持って、患者さんの話をよく聞き、日々の栄養指導に生かすことが大切だと考えます。うまくいくことばかりではありませんが、皆さまにもぜひ長期的な視野を持って、気長に患者さんに向き合い、日々の活動に取り組んでいただければと願います。

 

1)日本栄養士会ホームページ 管理栄養士・栄養士とは
 https://www.dietitian.or.jp/students/dietitian/
2)日本糖尿病療養指導士認定機構ホームページ CDEJってなに?
 https://www.cdej.gr.jp/modules/general_top/index.php?content_id=1
3)厚生労働省 令和2年度診療報酬改定の概要
 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000691038.pdf

※本記事に掲載している情報や所属、役職等は取材時点のものです。

取材日:2021年5月17日

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