コロナ禍でも薬薬連携において大きな進展を見せている地域がある。
今回は、薬薬連携のとり方やポリファーマシー対策、調剤過誤の防ぎ方について、病院、保険薬局、薬剤師会といったそれぞれの立場におられる薬剤師の先生方からお話をうかがった。
基幹病院~地域の薬剤師会との取り組み
阿部先生(みなと赤十字病院 課長)初めに薬薬連携の現状について、地域の薬剤師会と基幹病院が行っている取り組みについてご紹介いただけますでしょうか。
永持先生(ながもち薬局 代表)横浜市中区薬剤師会では、2014年から年3~4回のペースで地域基幹病院であるみなと赤十字病院の薬剤部と「みなと薬薬連携座談会」(以下、座談会)という意見交換の場を設けています。座談会では、みなと赤十字病院から新規採用品や後発品への切り替えといった薬事委員会の結果や、院外処方箋の記載方法の変更、調剤監査技術の開発、現状の課題などについて報告してもらい討議を行います。また、製薬企業や医薬品卸の担当者による薬剤や検査機器、薬品管理システムの説明会や、みなと赤十字病院の医師による疾患別薬物指導などを行っていただくこともあります。
加えて、トレーシングレポートのフォームも改訂を繰り返しており、入院支援に向けた薬薬連携のあり方や、その際に用いるトレーシングレポートの活用法、抗がん剤の処方ポイント、電子カルテのリプレイスの問題点などについても話し合ってきました。大きな成果としては、「院外処方箋の軽微な問い合わせ、あるいは確認事項における負担軽減のための申し合わせプロトコール」を作成し、みなと赤十字病院と薬剤師会の会員薬局との1対1での合意があります。このようなプロトコールは病院側が一方的に提示することが多いのですが、保険薬局の立場を考慮し、合意に至るまでかなりの時間をかけて話し合いを重ねました。
井口先生(みなと赤十字病院 副薬剤部長)そもそも事前に保険薬局の先生方も含めた4~5人で1つのテーブルを囲んで話し合ってプロトコールを作成したので、一方的に提示したという感覚ではありませんでした。またその際、保険薬局の薬剤師の方々からいろいろと助言いただき大変助かった覚えがあります。
阿部先生薬剤師会は特定の地域基幹病院だけでなく、ほかの多くの病院とも連携するので大変なのではないでしょうか。
永持先生残念ながら病院ごとの事情などもあり、他の病院との連携は十分とはいえない状況です。今後、機会を設けて連携を図っていきたいと思っています。
井口先生今までは、薬薬連携が弱いことが当院の課題だと思っていた時期もありましたが、薬剤部長のリーダーシップによって連携が強くなりました。薬薬連携が弱い時期には、院内処方箋に検査値を記載しても、院外処方箋には技術的に可能であるにもかかわらず記載していませんでした。しかし、薬薬連携を一方向の情報提供ではなく、対話を重視する形式に変更したところ非常に連携が強くなり、院外処方箋への検査値の印字が実現しました。
阿部先生病院薬剤師の立場から薬薬連携をさらに推進していくうえで、今後の展望などがあればお願いします。
井口先生コロナ禍で必須になったICT(情報通信技術)によって、薬薬連携は想定とは逆に大きく進展しました。時間の都合で対面での会合に参加できなかった薬剤師もweb講習会なら参加できますし、連絡先を交換することもできます。
深澤先生(ひとみ薬局 代表)確かにコロナ禍によりICTが発達し、移動時間がなくてもコミュニケーションがとれるようになったので大変助かっています。
現状の課題としては、参加できなかった薬剤師会の会員に座談会の内容やプロトコールなどをいかに周知するかということです。そこで、中区薬剤師会のホームページを活用し、病院側との相互リンクで情報をどちらからでも提供できる会員向けページを作成していきたいと考えています。このようにICTの活用によって、withコロナだけでなくpostコロナ時代も薬薬連携を推進していくことが可能だと思います。
男全先生(みなと赤十字病院 医薬品情報係長)非常によい取り組みなので、ぜひ当院も関わりたいと思います。当院の院外処方箋の約7割が門前薬局で対応されており、座談会ではその門前薬局と中区薬剤師会の薬局の薬剤師が参加し、報告事項や共有事例を題材に議論しています。薬剤師としていかに適正な医療を提供していくかを考える上で、今後は、地域の薬剤師会や病院や保険薬局だけでなく、地域の区別なくシームレスな連携が不可欠になると思います。
阿部先生確かに今までは、薬剤師会と病院薬剤師、病院と薬局、薬局と薬局という1対1の連携でしたが、それらが面で広がっていくことで、より質の高い医療の提供につながると思います。
ポリファーマシー対策について
阿部先生次に、ポリファーマシーについてはどのような対策をされていますでしょうか。
深澤先生もっとも基本的な対策は、お薬手帳での確認です。しかし、お薬手帳を失くしてしまう患者さんが一定数います。失くしてしまった場合は、何回か前からの処方内容を貼ったお薬手帳を再発行しますが、何度も失くされてしまうと本当の受診歴が把握できません。つまり、お薬手帳の問題点としては、持参してもらえないとどうしようもないということです。
とはいえ、多くの患者さんはお薬手帳を持参してくれます。その場合は、似たような作用の薬が重複して処方されていないかチェックします。薬の種類が多い場合、どの薬剤をどのように減らしていくかが非常に難しいと思っています。また、患者さんがいくつもの病院にかかって多剤服用している場合、私たち保険薬局の薬剤師から各医師に薬を減らすように提案することは難しいところがあります。そのような時、よい契機となるのが入院です。入院中は薬を減らしたことによる体調の変化に即対応できるため、病院薬剤師がお薬手帳をチェックして積極的に薬を減らすように働きかけることでポリファーマシー対策ができるのではないでしょうか。当薬局の薬剤師は退院後に薬が減っているのを楽しみにしています。
井口先生それこそが入退院支援センターでも把握したい情報です。最近は入院時にトレーシングレポートを送ってくれる薬局もかなり増え、当院としても大変助かっています。また、保険薬局の薬剤師が思う、「これで困っている」「〇〇医師にお願いしてもうまく薬を減らせなかった」という情報ももらえれば、病棟で医師と話しやすくなりますので、保険薬局の薬剤師が普段考えていることをぜひ教えていただきたいと思っています。そうした情報をいただけるという意味でも入院は大きな機会だと思っています。
深澤先生そうすると、普段からトレーシングレポートで情報提供するほうがよいのかもしれませんね。薬局側は患者さんが入院したことを知らず、後から聞かされることも多くあります。
井口先生以前、薬薬連携でそうした問題を聞いてから、当院では入院時のトレーシングレポートを患者さんの同意を得てから、保険薬局にもFAXするようにしています。そして 、「実はここに困っている」といったお困りごとを病院側に送ってもらうようにしています。トレーシングレポートの共有には患者さんの同意が必要なため数量は伸び悩んではいますが、病院側から報告することによって「いつの間にか入院していた」「保険薬局からの情報がない」という問題について解決を図っています。
深澤先生それこそが薬薬連携ですよね。どこの薬局も喜んで情報をくれると思うのですが。
井口先生そうですね。こちらから情報提供するとほとんどの薬局から返信があります。最近ではプロトコールの説明会で、「普段はどのようなフォーマットで情報提供すればよろしいですか」と聞いてくれることもあり、ネットワークの広がりを感じています。
深澤先生ポリファーマシーのもう一つの対策として、お薬手帳だけでなく薬局の一元化があります。多数の病院を受診してもかかりつけの薬局があれば、「この薬は必要ない」と伝えることができます。ただ、病院にかかった以上は薬が欲しいのが患者さんの心理なので足が遠のかないように、ドクターショッピングや多剤併用のデメリットを教育していく必要もあります。
井口先生薬局で削減するターゲットの薬がわかれば、それをぜひトレーシングレポートに書いてください。医師との直接交渉は大変だと思いますので、病院薬剤部と協力して行うのも1つの手段です。
阿部先生一方で、開業医(クリニック)から処方されている薬を削減する場合は、相当の労力を要すると思います。それでも、私は、薬剤師だからできることもあると思っています。
深澤先生そうですね。医師同士は互いの意向を尊重するので提案し合いませんが、薬剤師から提案すると意外と耳を傾けてくれることがあります。
當間先生(JCHO横浜中央病院 薬剤部 主任薬剤師)当院に入院される患者さんの多くが、ほかの病院やクリニックでも薬を処方されています。不要な薬があっても、医師の多くは「自分の処方ではないから中止できない」と言うのですが、なかには中止を検討してくださる先生もいますので、そうした先生に提案するのもよいと考えています。
また、下剤や睡眠薬など、入院してから処方されるようになった薬が退院後も漫然と処方され続けることも多いので、当院では中止してから退院するように計画していますが、ほかの病院の医師から処方された薬の中止は本当に難しいと感じています。
阿部先生私たち薬剤師もただ不要と言うだけではなく、なぜ不要なのかをきちんと説明し、中止した後の経過をきちんとフォローアップして医師にフィードバックしていく必要があると思います。そして、薬の削減にデメリットがないことを医師に理解していただくことが大切ですね。
GS1データバーの有用性
阿部先生GS1データバーの活用について、みなと赤十字病院の事例を教えてください。
男全先生 PTPシートのバーコード(GS1データバー)は、調剤過誤防止に役立っています。医薬品についているGS1データバーと処方箋に印字しているGS1データバーを照合し、一致しない場合には警告音が鳴ります。当院では、夜勤帯に薬剤師が一人調剤監査を実施する際に活用しています。
また、当院では医薬品SPD(Supply Processing and Distribution)の外部委託を導入しています。薬品棚に薬品を補充するのが薬剤師ではないケースもあり、SPDが薬品の箱と調剤棚に貼付したGS1データバーを照合し、間違いのないよう補充しています。また最近では、調剤補助者を配置する施設も多いと思いますが、当院でも調剤補助者がGS1データバーを読み取って必要な薬を準備しています。これらを行う際には、薬のPTPシートの一箇所にしかGS1データバーが印字されていない場合、切り離した薬にGS1データバーが印字されていないことがあります。その場合は、薬品棚にある薬のGS1データバーを読み取るなどの対応が必要となるので、GS1データバーが1錠ずつ印字されているほうが便利だと思っています。また、内服薬だけでなく注射薬自動払出機(アンプルピッカー)でもGS1データバーは有用です。使用しなかったアンプルが多数返却された場合、外観の類似したアンプルを目視で仕分けすることはリスクであり、かつ作業が煩雑になります。この場合にも、アンプルピッカーの薬品返却機を用いて、GS1データバーの情報を元に正確に仕分けることができます。
阿部先生アンプルピッカーはGS1データバーの付加情報である薬の有効期限もチェックできるのでとても助かりますね。ところで、特定生物由来製品の管理はどうされていますか。
男全先生特定生物由来製品は使用記録を20年間保存することが義務付けられています。保険薬局でもこのような管理品目を取り扱うことがあると思いますが、これらの製品には使用期限やロット番号の情報を含む二次元コードがあります。当院では、この二次元コードを読み取って製品情報を記録し、電子カルテのオーダーまた実施の記録と連動させて管理・保管しています。このシステムの導入により、手入力による誤入力が改善され、厳格な情報管理と業務効率化が促進されました。
阿部先生保険薬局の先生方は、どのようにGS1データバーを活用していますか。
深澤先生アプリを入れると、スマートフォンでもGS1データバーを読み込めるようになります。在宅診療など院外で活動していても、これがあればすぐに薬剤情報を見ることができます。患者さんはPTPシートを切って1錠ずつカレンダーやピルケースに入れるため、1錠ごとにバーコードが印字されていると、残薬の確認時に便利です。
永持先生GS1データバーを用いた調剤監査システムを導入している薬局も増えてきました。二重監査をしていても「薬が足りない」などのクレームが来ることがありますが、調剤監査システムを用いれば情報が残っているので自信を持って対応することができます。例えば、「鞄の中に落ちていませんか」「もし見つかったらお電話くださいね」と落ち着いて伝えることができ、その後80%ぐらいは「見つかりました」との電話があります。
當間先生当院は目視による調剤が中心でGS1データバーの恩恵をまだ受けられていませんが、先生方のお話を聞いて血液製剤もGS1データバーで管理できる点に大きな可能性を感じています。
阿部先生確かに、血液製剤の管理に対してメリットが大きいですね。輸血部に調査が入ると、以前は過去のデータ、20年分の用紙を手作業で1枚1枚めくって調べていましたが、現在ではGS1データバーを読み込むだけでデータベースに行くことができ、使用した患者が判別できるようになりました。
男全先生コロナ禍では、緊急輸入品をそのまま使用する事例がありました。このような場合には、GS1データバーがトレーサビリティの確保に必要不可欠な情報になると思います。また、当院は外国人の患者も多く、持参薬の鑑別にも時間を要することがあります。今後、グローバル化を視野に入れたとき、GS1データバーへの期待はさらに高まります。
阿部先生本日のテーマの根幹には、薬剤師が大切にしている2つの柱があります。すなわち、「医薬品の適正使用」と「医療安全」です。ポリファーマシー対策およびGS1データバーの活用でこれらをいかに実現していくかというところではないでしょうか。そのためにも薬薬連携を高めていくことが非常に重要ですね。先生方、本日はありがとうございました。
みなと赤十字病院
課長
阿部 多一 先生
ながもち薬局 代表
横浜市中区薬剤師会会長
永持 健 先生
ひとみ薬局 代表
横浜市中区薬剤師会副会長
深澤 仁 先生
みなと赤十字病院
副薬剤部長
井口 恵美子 先生
JCHO横浜中央病院
薬剤部 主任薬剤師
當間 嗣利 先生
みなと赤十字病院
医薬品情報係長
男全 昭紀 先生
※本記事に掲載している情報や所属、役職等は取材時点のものです。
取材日:2021年10月14日
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