知るシリーズ 糖尿病薬剤師外来

糖尿病薬剤師外来を開設し、日本糖尿病療養指導士という資格を生かしてご活躍されている福井宗憲先生に、糖尿病薬剤師外来での具体的な取り組みやその成果、患者さんに関わる上で工夫されていることなどについてお話を伺いました。

千葉徳洲会病院 薬剤部長
薬剤師、日本糖尿病療養指導士
福井 宗憲 先生

Q

勤務している病院の薬剤師の体制や糖尿病の診療体制などについて教えてください。

A

当院の薬剤師は、常勤が30名、非常勤が1名おり、薬剤部だけでなく各病棟や手術室にも配置されています。糖尿病診療に関しては、病棟に配置されている薬剤師が入院患者さんのインスリン注射の導入支援を担当します。患者さんの朝食時や夕食時は勤務時間外となるため、看護師に注射の見守りをお願いし、その際の状況を共有してもらうなど、他職種と連携して支援しています。当院の糖尿病内科には常勤の専門医がおらず、大学の代謝内分泌内科学講座の先生方にご担当いただいており、週5日外来診療を行っています。外来は、20代から80代まで幅広い年齢層の患者さんが毎月800~900人ほど来院しています。

Q

糖尿病診療に携わることになったきっかけや、日本糖尿病療養指導士を取得したきっかけを教えてください。

A

当院では、25年以上前から薬剤師がインスリン自己注射の手技相談を行うなど、外来・病棟を問わず患者さんに積極的に関わっていました。私が入職した当時もそのような環境だったので、自然と糖尿病診療に携わるようになりました。その中で、患者さんは薬物療法よりも食事や運動について知りたがっていると気がつきました。そこで、患者さんを総合的にサポートできるよう、食事療法や運動療法の知識を蓄えたいと思い、日本糖尿病療養指導士制度が創設されると同時に資格を取得しました。当院には、私を含めて日本糖尿病療養指導士が3名、県の資格である千葉県糖尿病療養指導士/支援士の資格を持つ薬剤師が2名在籍しています。

Q

糖尿病薬剤師外来を開設したきっかけや経緯を教えてください。

A

糖尿病患者さんには初回の服薬相談を行っていたものの、その後のフォローアップ体制は充分でないと感じていました。そこで、日本糖尿病療養指導士の資格を持つ薬剤師が中心となって糖尿病薬剤師外来を構想し、まずは糖尿病内科を受診する患者さんに聞き取り調査を行って実態を調べました。調査では、約300名の患者さんに、薬物療法に対する意識や薬剤師との面談希望の有無などをお伺いしました。さらに、糖尿病治療満足度質問表(diabetes treatment satisfaction questionnaire:DTSQ)を用いて「現在の治療法にどの程度満足していますか」「あなたの治療法はあなたにとってどの程度便利なものだと感じていますか」などの質問に回答していただき、治療満足度も探りました。結果、薬剤師との面談を希望する方が半数を超え、治療満足度が低い方や「薬を変えてみたい」「薬に対して不安がある」と思っている方が面談を希望していました。また、患者さんは「現在使用している薬の副作用・相互作用の確認」「医師への処方提案」などを薬剤師に求めていることもわかりました。医師には薬物療法に対する希望や不安を言えず、薬剤師に相談したいと思っている患者さんの存在が明らかになったのです。

調査結果により糖尿病薬剤師外来を開設する意義を感じたため、糖尿病内科の先生方に相談し、2017年に糖尿病薬剤師外来を開設しました。

Q

糖尿病薬剤師外来の体制や具体的な取り組みについて教えてください。

A

薬剤師外来を担当している薬剤師は2名で、週2日合計6~8名の患者さんとの面談を行っています。薬剤師外来は糖尿病に特化した知識や技能を持つ専門家が担当すべきだと考え、また、服薬相談だけでなく食事や運動などを含めた治療支援を行うため、日本くすりと糖尿病学会が認定する糖尿病薬物療法認定薬剤師や、日本糖尿病療養指導士の資格を持つ薬剤師が担当することにしています。

患者さんは糖尿病内科を3ヵ月に1回の頻度で受診されるので、その際に薬剤師外来も受診いただいています。面談は、主にHbA1c値7.0%以上が半年以上続いている60代以下の患者さんを対象として、同意が得られた場合に行います。あえて面談の時間を作っていただくのではなく、採血から診察前の血液検査の結果を待つすき間時間を利用して、薬剤部の個室で20~30分程度実施します。

3ヵ月ぶりの受診となるため、まずはこの3ヵ月間どのような生活をしていたか、何か変化がなかったかをお聞きし、その後、生活リズムや食事の傾向・嗜好、運動習慣の有無など生活習慣についてお話しいただきます。

生活面のお話をひととおりお聞きし、会話の中である程度信頼関係を築いた上で薬物療法のお話に移ります。残薬がないかなど服薬状況についてお尋ねし、服薬実施率が悪い場合はその理由を確認します。そして薬ごとに服用する理由を説明し、必要であれば医師に処方提案を行います。

面談前に行った血液検査の結果が出ていれば、HbA1c、BUN/CREなどの数値も確認します。また、すでに生活習慣についてのお話をお伺いしているので、服薬相談だけでなく、血糖管理に重要である生活習慣の改善方法や食事・運動療法についてのアドバイスも行います。面談の内容はすぐに電子カルテに記入し、医師が事前に確認してから診察に入るという流れになっています。

 
Q

患者さんとの関わり方、指導する際に工夫されていることを教えてください。

A

患者さんから伺った食事内容や運動習慣などが血糖管理のために適切でなかったとしても、まずは否定することなく共感を示すようにしています。生活習慣や嗜好を把握して、実行できていることが何かあれば褒め、改善すべき点があればアドバイスします。

食事療法はある程度長く続ける必要があると考えているので、最初から理想的なエネルギー摂取量などを目指すのではなく、ご本人が無理なく始められそうな方法を提案します。例えば、「献立は今までと同じでも、食べる順序を工夫して野菜から食べ始める方法もありますよ」と提案をし、患者さんが「それならできる」と思えるようであれば取り組んでいただきます。その方法に慣れたら次のステップに進みます。運動でも同じように、「特別なことをしなくても散歩でもいいんですよ」「家事も運動ですよ」と患者さんができることを見つけ出して伝えています。
生活習慣の改善が重荷になっていたりストレスに感じていたりすれば継続できなくなる可能性があるので、心理的な負担がないかも毎回確認しています。

服薬の確認では、「薬は飲めていますか」という尋ね方をすると、患者さんは「はい」と返事をする傾向があるので、残薬の量をお聞きしています。薬が多く残っている場合は飲み残してしまう理由を探っていきます。薬剤の種類や服薬回数が多いために管理ができなくなっていれば、合剤に変更したり服薬のタイミングを統一したりするなど、管理しやすくなる方法を考えて提案しています。提案した方法で服薬の継続が可能かどうかは、患者さんに判断していただきます。患者さん本人が「できる」と判断することで、自分で治療を選び、主体的に治療に取り組むことにつながります。

Q

糖尿病薬剤師外来の開設により、患者さんに変化はありましたか?

A

糖尿病薬剤師外来で面談する患者さんは、血糖管理に関する理解が乏しく、自身のHbA1c値がいかに悪い数値なのか理解していない方が少なくありません。そのような方には、イメージしやすい表現を用いて説明するようにしています。

自分の状態を客観的に捉えられるようになったことで、処方された薬剤の必要性を理解しやすくなります。単に医師に処方されたからという理由だけで服薬していた方の意識が変化し、服薬実施率が向上して、飲み忘れが少しずつ減少していっていると実感しています。

また、先ほどもお話ししたように、間食を我慢するとよけい食べたくなるため適切なものを適量食べる、運動は家の中でできる体操から始めてみるなど、「これならできる」と思える方法を一緒に考え、選んでいただきます。患者さんが自己決定して取り組むことで、治療や生活習慣改善の継続につながっていると感じています。

 
Q

糖尿病薬剤師外来の診療にあたり院内での他部署とどのように連携しているか教えてください。

A

糖尿病内科の医師、看護師、管理栄養士と週1回カンファレンスを実施し、管理栄養士と薬剤師が療養指導の内容と患者さんの反応を共有しています。医師からは、「面談の結果、処方提案があったので薬剤を変更した」「処方提案があったが、もう少し現在の処方を続けてほしいため変更はしなかった」など処方の意図を聞くことができ、お互いが納得してから今後の治療について検討しています。

カンファレンスには新たに運動療法の専門家である理学療法士が加わることになりました。管理栄養士と理学療法士から食事・運動療法について新たな知見が得られ、お互いの知識がブラッシュアップできる場ともなっており、それが患者さんとの次の面談に生かされています。

Q

糖尿病薬剤師外来の開設を目指す方へメッセージをお願いします。

A

糖尿病薬剤師外来開設前、糖尿病内科の先生に「現在は先生方が行っている服薬状況の確認を、私たちが薬剤師外来で担いたい」「資格を取得しているので治療支援も行いたい」と相談したところ、とても歓迎され賛成していただきました。薬剤師外来は医師に受け入れられやすく、開設に反対する先生はいらっしゃらないのではないかと思います。薬剤師が薬剤師外来で積極的に専門性を発揮することで、医師は診療に集中することができ、負担が減ってタスクシフト/シェアにもつながります。

また、開設前に行った調査で、薬剤師に相談したいと思っている患者さんの存在が明らかになっており、糖尿病薬剤師外来はニーズがあると感じています。実際に面談を提案しても、患者さんに断られたことはありません。生活の話などからお尋ねしていくと、患者さんもご自分の考えが整理できるのかさまざまなお話をしてくださいますし、信頼関係が構築されて私たちのアドバイスを受け入れてもらいやすくなったと感じています。糖尿病薬剤師外来は患者さんにも私たち医療従事者側にもメリットをもたらします。薬剤師外来によって何か結果を残そう、爪痕を残そうと気負うのではなく、まずは、患者さんのお話を聞く機会を設けることから始めてみてはいかがでしょうか。

 

※本記事に掲載している情報や所属、役職等は取材時点のものです。

取材日:2022年7月21日

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