聞くシリーズ 専門資格者の取り組み

看護師として日々心不全患者さんやご家族への支援を行いながら、多職種が連携する心不全チームも主導されている武下千朝先生。「心不全看護認定看護師」に加え、2021年度に新たに認定制度がスタートした「心不全療養指導士」の資格も取得して活躍されている武下先生に、心不全療養指導士の役割や魅力、心不全チームの活動、地域に根ざす取り組みについて幅広くお話を伺いました。

小倉記念病院 心不全看護認定看護師、心不全療養指導士
武下 千朝 先生

Q

心不全療養指導士とはどのような資格でしょうか?

A

日本循環器学会認定の2021年度から開始された資格です1)。その役割は、医師以外の医療専門職が、専門知識と技術を活用しながら、心不全患者さんに対して最適な療養指導を行い、心不全による増悪・再入院の予防と生活の質の改善を図ることです。

心不全療養指導士は、看護師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなどの幅広いコメディカルの職種が、各々の知識やスキルの向上を通じて心不全患者さんへ貢献することができるとても有用な資格だと思います。

Q

心不全療養指導士の資格取得を目指されたきっかけについて教えてください。

A

まず、心不全看護に興味を持つようになったのは、当院の循環器内科と心臓血管外科との混合病棟で勤務していた当時に、なぜ心不全患者さんは再入院を繰り返すのだろうと疑問に感じたことが始まりです。心不全患者さんと接するうちに、「看護師としてもっと介入できることがあるのではないか?」と考えるようになったと同時に、「もっと心不全看護について知りたい」と思うようになり、2018年に慢性心不全看護認定看護師(現:心不全看護認定看護師)を取得しました。これを機に私は、当院の心不全チームに主導的な立場で参加し活動を開始することになったのですが、しばらくして、心不全療養指導士という資格が新設されることを知りました。チーム医療に貢献できるスキルを磨くことで、患者さんへより充実した支援をしたいと考え、資格取得を目指すことにしました。

心不全療養指導士と心不全看護認定看護師では、それぞれ共通点と異なる点があります。どちらの資格にも共通することは、心不全患者さんの“再入院率の低下”を最大のアウトカムとしていることです。加えて、在宅で療養中の患者さんやご家族の実際の生活状況や生活の質を把握することも重要です。また、現場の担当者だけでは解決困難な課題を一緒に考え、支援することも両資格に共通する大切な役割です。いずれも現場から必要とされ役に立ってこそ有資格者としての価値を発揮すると思っています。そのために、常に周囲へのアンテナを張り、敷居を低くして、相談されやすいように心がけています。

両資格の違いは、心不全看護認定看護師が、心不全増悪因子の評価や病態を踏まえた上で“心不全看護”の視点から患者さんやご家族の背景に合わせた生活調整を行う役割があるのに対して、心不全療養指導士は、心不全予防を図るために必要な“専門職の連携を通じたチーム医療”への貢献と包括的な療養指導の実践を役割としている点です。

Q

貴院の心不全チーム発足の背景や特徴について教えてください。

A

当院では2009年に一度、単独の医師による対応には限界があると気付いた医師が主導して心不全チームを発足させたのですが、その医師が異動になったことをきっかけに低調期を迎えました。しかし心不全患者さんは増加の一途をたどっていたため、2017年頃から別の医師がチームの再活性化の必要性を感じ、そのときちょうど慢性心不全看護認定看護師(現:心不全看護認定看護師)の教育課程にいた私に「タッグを組もう」と声をかけてくださって、2018年にあらためてチームを再構築しました。

現在の心不全チームでは、循環器内科医や心臓血管外科医、看護師(病棟、一般外来、救急外来)、薬剤師、管理栄養士、理学療法士などのリハビリテーションスタッフ、臨床工学技士、医療ソーシャルワーカー、事務のスタッフなどが週1回のカンファレンスに集まり、現場から介入依頼があった患者さんを対象に、多職種で知恵を出し合いながら活動しています。

当チームの一番の特徴は、“看護師が主導”している点です。当院の心臓血管病センターは、6つの一般病棟、2つの集中治療室に分かれており、それら全てに心不全患者さんが入院されます。そのため、各病棟に心不全チームのリンクナースを配置しました。リンクナースは短期間で再入院を繰り返したり、自己管理行動に難渋したりする患者さんと心不全チームをつなぐ役割を担っています。このように活動の起点が看護師であることが一番の特徴です。また以前のチームは医師主導でうまく機能しなかった経験があったことから、今度のチームはぜひ看護師主導で進めてほしいと医師から望まれ、現在は私がリーダーを務めています。

以前のチームからの変化として、公式に組織化した点も大きかったと思います。能力や意欲の高いメンバーがチームとしての力を発揮するためには、同じ目的・目標に向かって活動することが基本になると思います。以前はインフォーマルな状態で活動していたため、チームで目標を設定しメンバーに共有するような動き方をしていなかったそうですが、現在は院内の公式な組織となりチームで目標を共有できたことで、連携が強化され、各メンバーによる現場での活動も能動的に行えるようになりました。

 
Q

心不全チームとして活動する上で、重視されているのはどのような点でしょうか?

A

私たちは現場を尊重し、現場スタッフと一緒に患者さんについて考えることを大切にしています。毎週の心不全チームのカンファレンス時には、必ず対象の患者さんがいる病棟へ出向き、現場の看護師や薬剤師、管理栄養士、リハビリテーションスタッフなどを交えて協議を行います。心不全チームが介入する患者さんは、進展ステージD2)の治療抵抗性心不全の方が多い傾向です。また高齢独居や高齢者のみの世帯の方も多くおられます。こうした患者さんを支えるご家族も含めて、住み慣れた地域で、できるだけ望まれる形で生活を続けられるようにチーム一丸となって取り組んでいます。

また、チーム医療は現場の役割を果たしてこそその上に成り立つものだと考えています。私自身も、心不全チームのメンバーである前に、看護部に所属する病棟看護師としての仕事があります。チームとしての活動に周囲から協力を得るためには、病棟での臨床業務や教育の役割をしっかりと担うことが基盤になります。どちらからも必要とされる存在になることが重要だと思っています。

Q

心不全チームによる介入で成功された事例などを教えてください。

A

地域に帰られる患者さんやそのご家族は、生涯心不全とともに生活されるため、最善の疾病管理を行うことがわれわれ医療従事者に求められます。その具体的な方法のひとつが、セルフマネジメントの習得のための支援です。

介入が成功した一例として、的確な問題点の抽出と指導で再入院を予防できているケースをご紹介します。その患者さんは、他院からアドヒアランス不良の末期心不全ということで紹介入院されました。関わってみると、ご自身なりに頑張って減塩を実践されていたのですが、その方法に問題があることがわかりました。家族用に作ったお味噌汁にお湯を足して薄めて飲んでいたのですが、濃度が薄いから大丈夫と思って量をたくさん飲んでいたようです。それでは塩分摂取量はほとんど減らず、逆に水分の過剰摂取になっていたのです。薄めるのでなくご本人分は分けて味付けすること、摂取量自体を減らすことなどを指導したところ、お味噌汁以外にも間違った自己管理をしていることに気付かれました。ご自身でセルフマネジメントを見直され、結果2年経過した現在でも再入院されることなく、ご自宅で生活されています。ほんの小さな介入が、再入院予防という大きな結果につながったことは、とてもうれしく思いました。

この方のように、患者さんの多くは減塩や禁煙、体重測定などのセルフケアの必要性についてすでによくご存じです。しかしその知識だけでは、「具体的に何をすればよいか」がわからず、適切な行動につながっていないことも多いのです。私たちは、患者さんやご家族の背景を踏まえながら、患者さんご自身でできることは何か、地域の医療・福祉にお願いすることは何かを、退院前に明確化するようにしています。

しかし、適切な介入が困難な事例も少なからずあります。その多くは高齢心不全患者さんのフレイルサイクルに関連しています3)。入退院を繰り返すたびに認知機能や身体機能が低下し、ご自宅での生活の継続が難しくなる方もいます。特に高齢独居などで社会的に孤立しやすい方や認知症の方などに対する支援は、フレイルサイクルを断ち切る方法の具体化と、社会福祉の充実が必要であると考えています。

 
Q

地域との連携について教えてください。

A

心不全チームでは、院内のみならず、地域のクリニックや病院とも連携することで、急性期から在宅に至るまで切れ目なく心不全の治療が受けられるように幅広く活動しています。まず、心不全増悪の要因や、それに対する観察・ケアの方法などを、地域の医療・福祉従事者の方々へ明確に伝えるように努めています。また、患者さんやご家族が大切にされていることも書き添えます。地域の施設などで従事する看護師は、私たち病院勤務の看護師よりもずっと多くの心不全患者さんに介入していると思うため、こちらからお願いしたいことを明確に絞って伝えています。

また、介護施設の利用者さんはさまざまな疾患を抱えており、そこで勤務するスタッフは、適切な救急搬送のタイミングなど広範な知識を要する対応を求められることに負担や不安を感じているのではないかと思います。その課題を解消する取り組みとして、当院の後方連携施設や介護施設、在宅医療に従事するコメディカルを対象に、心不全看護の知識を深めるセミナーを開催しています。看護師をはじめ、介護職員、ホームヘルパー、理学療法士など多職種が参加してくださっています。(2020年以降は新型コロナウイルスの影響で集合型のセミナー開催が困難なため、出張地域セミナーという形で私たちが地域の施設へ伺って、共に知識を高め合う活動などを少しずつですが実践しています。)

当地域にはまだ地域連携パスなどがありませんが、今後は長期的に継続可能な連携方法を見出すことが課題だと思っています。

Q

これから心不全療養指導士を目指すコメディカルのみなさんへメッセージをお願いします。

A

心不全療養指導士は、病院や地域のクリニック、訪問看護ステーション、介護施設、福祉施設など、さまざまな場所で活躍が期待される資格です。特に心不全に興味があり、心不全患者さんやそのご家族の支援のためにスキルアップを目指したいコメディカルのみなさんにお薦めします。チーム医療への参画や自身の活躍の場を広げることもできるため、大きなやりがいにつながる資格であると思います。

われわれコメディカルはまさに心不全医療の一翼を担っています。心不全療養指導士がその力を発揮することで、地域の心不全医療へ貢献できると考えています。心不全療養指導士として、これから資格の取得を目指すみなさんと一緒に活躍することができたらうれしいです。

 

1)日本循環器学会ホームページ 心不全療養指導士とは
 https://www.j-circ.or.jp/chfej/about/
2)日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
3)日本心不全学会ガイドライン委員会 高齢心不全患者の治療に関するステートメント(2016)

※本記事に掲載している情報や所属、役職等は取材時点のものです。

取材日:2021年4月26日

【本記事に関する内容は、取材に基づいたものであり、特定の事柄をアドバイスしたり推奨する事を目的としておりません。
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