知るシリーズ 在宅医療

訪問診療医として在宅医療に携わりながら、医療介護系コンサルタントとしても活躍されている久富護先生に、在宅医療の未来予想図や、これから在宅医療を始める際のポイントなどについてお話を伺いました。

医療法人社団プラタナス 松原アーバンクリニック
医療法人寛正会 水海道さくら病院 地域包括ケア部長
久富 護 先生

国の制度が目指す在宅医療の方向性について

Q

現在、在宅医療に関する国の制度は、どのような方向に向かって構築されているのでしょうか。

A

在宅医療に関する制度には、医療計画や地域医療構想、介護保険事業計画、在宅医療・介護連携推進事業などさまざまなものがあります。例えば、地域医療構想は、2025年の患者数を区域ごとに推計し、そのときの需要に見合う、主に病床機能に関しての医療提供体制を構築するための施策ですが、この中で在宅医療は、現状の療養病床等の受け皿として、将来に向けた医療提供体制の編成に欠かせない領域として扱われています。また医療計画や介護保険事業計画においても、医療と介護が連携した総合的な対策を講じることを根本理念としていますし、在宅医療・介護連携推進事業では、医療と介護の事業者同士が連携し、包括的かつ継続的なサービスを提供することが重要と明示されています。ここで示されているように、現在の医療介護政策は、在宅医療を今後さらに推進し、介護との連携を深めていく方向性でつくられているといえるでしょう。

Q

国の方針を受けて、在宅医療に取り組む病院・診療所は増えてきているのでしょうか?

A

私の印象としては、在宅医療に取り組む医療機関は、全体として増えているように感じています。ただ、現在公表されている厚生労働省の集計では、在宅療養支援診療所は、2016年をピークに届出数が減少しました1)。しかしその後、再度上昇に転じ、2020年は過去最高の届出数にせまってきています。在宅療養支援病院数に関しては、2018年の時点ですでに1300施設を超えており、こちらは毎年、10%弱のペースで右肩上がりに増加を続けています1)

Q

在宅医療に取り組む際のハードルの高さに、病院と診療所で違いがありますか?

A

診療所との比較でみると、実は病院の方が在宅医療導入に対するハードルは高いと考えています。病院は組織が大きいため新規事業導入の意思決定に時間がかかることが多く、専門部署の立ち上げや人員配置の計画などの準備にも時間を要することが考えられます。また、システムの変更も容易にはできないため、使用中の外来・入院用の電子カルテシステムに在宅医療のシステムをスムーズに組み込めないと、導入のハードルとなることもあるようです。

その点、診療所では、医師ご本人が経営者であることも多いため、意思決定のスピードは早くなります。システムに関しても、在宅医療は軌道に乗るまでは紙カルテで運用することもできますので、導入のハードルは低いのではないかと思います。

導入後については、後述しますが、病院による在宅医療は、後方支援の面で非常に機能的となります。すでに後方ベッドが自院に確保されていることが、やはり大きいです。また医療資源の面でも、病院はすでに多くの医師や看護師さんを抱えているため、体制を整えることができれば、往診対応などの院内連携が可能となり、医師の業務負担軽減が実現できます。

Q

在宅医療は今後どのように進んでいくでしょうか?

A

在宅医療に関わる医師、医療機関は今後もさらに増加していくでしょう。中でも主に外来診療を行いながら、在宅医療に取り組む診療所は、診療報酬上の後押しもあり、さらに増えると思います。病院も、先ほど述べたようにクリアすべき課題がいくつかあるものの、経営面では病床稼働率低下を補てんできるメリットや地域包括ケア病棟の算定要件などもありますので、さらに増加すると思っています。

私は、病院が在宅医療に取り組む意義は大きいと考えています。病院が在宅医療に携わっていれば、在宅で診ている患者さんに入院が必要となった場合でも、そのまま自院で受け入れることができます。患者さんの視点に立てば、日ごろ在宅で診てもらっているかかりつけ医がいる病院に入院できるので、安心感は大きなものがあるのではないでしょうか。また、後方支援を引き受けてくれる病院を探すことは大きな業務負担になっているので、病院が在宅医療に携わることの地域に対する貢献度は非常に高いと考えます。とはいえ、病院の数は限られている中で、在宅医療のメインプレイヤーはやはり診療所だと思っていますので、今後も診療所と病院の連携は非常に重要になります。

次に着目すべきなのは、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などの介護施設が在宅医療において果たす役割です。2019年に入居系介護施設などで亡くなられた方の人数は、5年前と比べ約1.5倍にのぼり2)、今後もこうした「施設での看取り」が増えていくと考えられます。今後は、「看取りの場」としての施設の在り方が焦点になっていくでしょう。ご高齢の入所者が施設でお亡くなりになった場合、「結果的に」看取ることとなったのか、それとも、看取りを見据えた体制に基づいたサービスを提供した上での看取りであったのかでは、ケアの質が大きく異なってくると考えられます。今後は看取りの体制をより充実させた施設のニーズが高まると思いますし、より多くの施設がそういった体制を構築することに対して、大きな期待を抱いています。

在宅医療を導入する際のポイントについて

Q

診療所が在宅医療を導入する際のポイントを教えてください。

A

第一のポイントは、最初にどのような患者さんを訪問診療の対象として選ぶかです。状態が落ち着いている慢性疾患で、ご本人やご家族との信頼関係がすでにできている患者さんから始められるのがよいと思います。例えば、高血圧で長く外来に来られていた方が、足腰が弱くなり通院が難しくなったのでご自宅に診に行く、というスタンスです。また、患者さんのご自宅が地理的に遠ければ、往復に時間がかかってしまうので、初めはお近くの方からスタートされる方がよいかもしれません。

第二のポイントは、夜間対応です。いきなり24時間体制を構築するのは難しいので、最初は夜間対応をしている近隣の病院と連携するとよいでしょう。夜間は電話対応のみ行い、何かあれば病院にお願いするというやり方で十分だと思います。地域の医師会が夜間の協力体制を敷いている場合もあるので、事前に調べておかれるとよいと思います。

第三に、訪問看護ステーションの選択です。立ち上げ当初は、極力、夜間対応をしている訪問看護ステーションと組まれるのがよいと思います。緊急時には患者さんからの電話はほとんどが訪問看護ステーションへつながり、そこで訪問看護師さんによる一次判断が入ってから医師に連絡がきますので、訪問看護ステーションの夜間対応の有無で医師への負担がかなり異なります。

このような形で2~3名ほど診ていけば、在宅医療がどんなものか様子が見えてくると思います。週1回午後の1コマや、午前診と午後診の間や外来診療前後などに、少しずつ無理のない範囲で始めてみてはいかがでしょうか。

Q

訪問診療に持参する医療材料の選択は、どのようにされていますか。

A

どのような疾患をお持ちの患者さんを診療するかによって、持ち出す医療材料が決まってきます。例えば、高血圧や糖尿病など慢性疾患の方であれば、それほど多くのものを持って行く必要はありませんが、例えばがんの末期の方であれば、医療用麻薬が必要になりますし、点滴の医療材料もかなり種類が増えます。主に疾患のグループごとに持参する医療材料の紐付けをすることになります。

Q

在宅医療の現場における今後の課題などがあれば、教えていただけますか?

A

地域における多職種連携についてはここ5~6年でかなり進んでいる印象があります。次に解決すべき課題としては、在宅医同士の連携があるのではないでしょうか。夜間対応や往診対応などを在宅医同士が地域で連携していくには、制度面も含めまだまだ改善の余地があると思います。地域の在宅医療の全体を俯瞰する役割を担う場所があり、医師同士の業務分担や医療の質を担保するための相互サポートを行えるシステムなどがつくられればよいのですが、制度・仕組み、予算面などのハードルもあり、このあたりが今後の課題といえそうです。私の方でも地域の医師会や行政などと協力し、この課題解決に向けて、今後も尽力したいと思っています。

Q

これから在宅医療に取り組もうとしている医師のみなさまへ、メッセージをお願いします。

A

在宅医療の魅力の一つは、人生の最期まで立ち会わせていただくなど、より深く患者さんやご家族に寄り添った医療が実践できることだと私は考えています。

もう一つは自分が理想とする医療を実践しやすい点です。在宅医療の現場は、病院や診療所ではなく、あくまでも患者さんのご自宅であるため、臨機応変な対応を求められることが多くなります。これは大変である反面、それぞれの医師の専門性や経験値をより自身の裁量において発揮できる場面が増えることにつながります。その分、医師の力量が試される場であるともいえます。

さらに、マネジメントの面白さを味わうことができることも魅力の1つです。在宅医療は決して医師一人だけではできません。訪問看護師、ケアマネジャー、そのほか多くの多職種の方々とのよいチームづくりがあってこそ成立する現場です。そのため、医師には全体をマネジメントする力が要求されます。これは事業者を跨ぐマネジメントとなるため、病院などの組織内での経験とはまた違うスキルを要します。そのため、おそらく医師としての新たな成長につながる貴重な機会になると考えています。また、そういった良好なマネジメントやチームづくりができると、それらを横展開することで地域の医師会や行政も巻き込んだ地域課題の解決にもつながり、さらに大きなやりがいにつながることがあります。

このように患者さんに寄り添う医療を実践したい先生方、ご自身の理想とする医療を実践したい先生方、新たな挑戦に取り組み成長したい先生方に、ぜひ参入していただきたい領域だと思っています。ぜひ一緒に取り組みましょう。

 

※本記事に掲載している情報や所属、役職等は取材時点のものです。

取材日:2020年9月25日

1)厚生労働省 在宅医療にかかる地域別データ集、届出受理医療機関名簿
2)厚生労働省 令和元年人口動態統計 死亡の場所別にみた年次別死亡数

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