知るシリーズ 在宅医療

訪問診療医として在宅医療に携わりながら、医療介護系コンサルタントとしても活躍されている久富護先生に、在宅医療の現状について、診療報酬、地域連携、コロナ禍がもたらした変化などの視点も交えながらお話を伺いました。

医療法人社団プラタナス 松原アーバンクリニック
医療法人寛正会 水海道さくら病院 地域包括ケア部長
久富 護 先生

かかりつけ医による在宅医療の現状について

Q

現在、在宅医療に注目が集まっている背景について教えてください。

A

いろいろと要因はあると思いますが、第一に背景としては政策的な動向が大きいと思います。国は地域包括ケアシステムをはじめとした在宅医療推進の方向に政策を進めています。

第二に、国民レベルでの価値観として、自宅で最期を迎えたいという考え方がより多く出てきたことがあります。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)に加えQOD(クオリティ・オブ・デス)といった概念が、国民一人一人に浸透してきているのではないでしょうか。

第三に、昨今の医療機関の経営環境の問題です。近年、診療所の1 日平均外来患者数は減少傾向にあり、高齢化がさらに進めば、ADL の観点から外来に受診することができる高齢者の数は減ってきます。そうなれば必然的に医師や看護師が医療機関から患家に出向く必要が生じますし、そうしない限り経営的にも厳しくなるという現状が背景にあるのではないでしょうか。

Q

実際にはなかなか在宅医療を行うことができる診療所が増えていない現状がありますが、その原因についてどうお考えですか?

A

まずは、夜間や土日祝日の対応の大変さでしょう。外来診療では、例えば18時に診療が終わればそこで業務を終えることができますが、在宅医療では24時間体制の確保が必須となります。それをどう実現するのか考えなければならないところが最大のハードルではないでしょうか。

次に患者さんのご自宅で医療行為を行う際に、どのような医薬品や医療資材をどれだけ持っていけばよいのか、患者さんに合わせてどのようにコントロールすればよいのかを考え準備することが、ハードルになっているのではないかと思います。

また、同行する看護師さんや在宅関連の診療報酬について詳しい事務さんなどの雇用の難しさもあると思います。
最後に、スケジュール調整の煩雑さでしょう。外来であれば診察室で待っていれば患者さんの方から来てくださりますが、在宅医療ではこちらから出向かなければなりません。多職種も巻き込んだ調整が必要になります。

Q

先生が所属されている医療機関では、そういった数々のハードルをどのようにクリアされているのですか?

A

私はいま、都内のクリニックと茨城県の病院の2つの医療機関に所属しています。クリニックのほうは規模の大きな医療法人が経営しており、連携して在宅医療に携われる医師を多数抱えていることが強みとなっています。ここでは夜間の当直制があり、主治医が担当患者さんに対して、夜間往診が必要と判断した場合には、すぐに当直の医師に連絡を取り往診をお願いできるようになっています。電子カルテで情報共有しながら、夜間のほか土日祝日の対応も全てシステマティックに対応しています。また通常の診療では、看護師さんや事務さんと一緒に訪問し、主治医以外に患者さんのことがわかるスタッフがいる状態をつくるようにしています。私の担当患者さんは40〜50名ほどですが、このような体制が円滑に診療できる基盤となっています。

病院のほうは、訪問診療に携わっている医師が私を含めて3名おり、私が不在のときには他の医師にフォローしていただける体制があります。夜間は、現状では院内での人員の確保が難しいため、外部の医療機関と連携して対応しています。

診療報酬について

Q

在宅医療の診療報酬上での評価は、近年どのように変化していますか

A

訪問診療は当初、介護施設に入居されている方と自宅で療養される方でほぼ同じ点数で算定されていましたが、2014年の改定で居宅に住んでいる方と施設に住んでいる方で点差が設けられ、施設入居される方に対する算定が厳しくなったという経緯があります。また2018年の改定では、重症の方は在宅医療中心の機能強化型在宅療養支援診療所(支援診1・2)が担当し、月に1度の訪問診療による管理料算定が認められた経緯から、中等症から軽症の方は一般の診療所も含めた在宅療養支援診療所(支援診3)で、診ていただくという方向性が示されたと思っています。2020年は、在宅医療に関しては大きな改定はあまりなかったと理解しています。

全体としては在宅医療を推進する方針に変わりありませんが、単に在宅医療をやっていれば点数が高いというわけではなく、状況に合わせた適正化がなされてきています。

Q

訪問診療を何名まで増やすとよいなど、目安になる損益分岐点はありますか?

A

診療所や患者さんの重症度等で条件が違うので厳密にはいえませんが、ご自宅で訪問診療をする場合、現状では1人当たり、月に約5500~6500点になります。内科系の外来診療単価を約5000〜7000円と仮定して換算すると(月に1回の外来受診として)、在宅の患者さんを1名診ると、内科外来で8~10名ぐらい診ているのとほぼ同じ経営インパクトがあります。さらに逆算して、例えば訪問診療で3名診れば、単純に掛け算をすると、外来で半日、約24~30名ぐらいの患者さんを診ているのとほぼ同じ計算になります。売上ベースなので利益は別ですが、おおむねそのようなイメージかと思います。自院の損益分岐については、これらの数字をご参考にしていただければと思います。

また全国に70万人ほどの在宅患者さんがおり、その多くが軽症にカテゴリーされる方ですが、実際には、そういった患者さんも機能強化型在宅療養支援診療所で診られているのが現状です。今後、軽症の方はもう少し算定要件が厳しくなる(点数が下がる)という予想もあり、強化型の医療機関はより重症の患者さんを診る方向にシフトする可能性もあります。そのため、地域のかかりつけ医の先生方が在宅医療に参入いただく必要性が、今後さらに高まるのではないでしょうか。

地域連携について

Q

在宅医療を始めるにあたり、地域連携はどのように構築していけばよいでしょうか?

A

地域によってさまざまなパターンがあります。在宅医療では訪問看護師との連携が重要になりますが、診療所側が訪問看護師を指定するパターンもあれば、ケアマネジャーが指定することもあります。まずはその地域の実情に合わせて連携構築を始められるとよいと思います。関係者とのお付き合いができてくれば、この患者さんにはここの訪問看護ステーションのほうがよいとか、この薬を使う患者さんならあの訪問薬剤師さんでないと駄目だなど、患者さんの病態に合わせてチームが組まれるようになってきます。重要なのは情報共有と思っています。

地域包括支援センターが多職種連携の会などを実施したり、地域の医師会が勉強会を開催したりしていると思いますので、まずはそういった場に行かれることをおすすめします。在宅医療ではさまざまな制度面でのハードルもあるので、最初に勉強会などで雰囲気をつかんでおくと役に立ちます。お互い顔の見える関係性ができてくると、情報共有の面でも風通しがよくなりますし、お互い腹を割って頼みごとをしたり、難しいときは断ったりということがスムーズにできることが多いです。もちろんこうした会は、在宅医療を現時点で行っていない先生方の参加もできる場合がほとんどですので、まずは会の主催者に問い合わせをしてもらうのが、よいかと思います。

また機能強化型在宅療養支援診療所を経営されているなど、地域で在宅医療に詳しい先生方と医師会の集まりなどの機会を利用して関係をつくり、始める際のポイントや地域ならではの情報などを聞いてみるのも一つの方法です。

Q

患者さんごとの多職種チームはどのようにして組まれるのですか?

A

連携する職種は、訪問看護師、ケアマネジャー、訪問薬剤師、セラピスト、訪問介護や通所介護に関わる介護職の方などが一般的で、最近では管理栄養士も入ってきています。場合によって行政も入ります。頻繁にやり取りするのは訪問看護師やケアマネジャーです。これらの方々との連携が非常に重要になりますね。ケアマネジャーさんは患者さんの生活情報を、医療従事者よりよくご存じです。またトラブルがあったときの中継的な役割を担っていただけるので、しっかり関係を築くと業務が円滑になります。訪問看護師さんには医療的パートナーとして患者さんの情報収集、アセスメント、処置など多くのことをお願いしています。

Q

多職種チームで患者さんの情報共有はどのようにされていますか?

A

情報共有のパターンとしては、ICTツール、電話、ファックス、患者さんのご自宅に置く共有ノートなどがあります。ご家族から口頭で伝聞することもあります。最近はICTツールを使うのが大きな流れです。とはいえ、まずはケアマネジャーさんと電話でやり取りするところから始めるのでよいかと思います。

情報共有をどういった頻度やタイミングで行うのかは、チームで最初に決めておくとよいでしょう。コンセンサスが得られていないと連携がスムーズにいかなくなることもあるため、容態が安定していて変化がなければ報告は必要ないのか、定期的に連絡を取り合うのかなど、ルールを決めておくとよいと思います。業務負担は少しかかりますが、チームメンバーの発言に対してはきちんとこまめに返信するようにすると、特に最初の段階では、チームの信頼を得られやすいと思います。

コミュニケーションを取るうえでは、「相手の立場に立つ」ことが大切だと日々実感しています。例えば、介護施設入居中の患者さんの薬剤変更を検討する場合、まずは施設の看護師さんの明確な形での理解を得る必要があると考えています。施設の看護師さんには、その施設で生活する患者さんのケアを担う立場としての責任があり、薬剤変更に関して、ご家族に連絡する立場となっているからです。その薬剤変更がご家族に納得のいく形で施設の看護師さんが説明ができるものでなければ、簡単には受け入れられなくなります。このように、地域でチームが一枚岩となって患者さんをサポートするには、まず、チームのメンバーそれぞれが置かれている立場を想像し、それを尊重する姿勢が重要だと思います。

コロナ禍がもたらした在宅医療の変化

Q

新型コロナウイルス感染流行が大きな問題となっていますが、在宅医療の現場で変化はありましたか?

A

在宅医療においては、現段階では新型コロナウイルス感染流行が大きな経営的なダメージを与えている印象はありません。訪問回数を2回から1回に減らしてほしいといった希望はありましたが、感染を気にされて訪問診療を拒否されるような話は、私の周囲からはあまり聞いていません。

逆に新たなニーズが生まれています。病院が面会を制限したことで、入院患者さんがご家族には会えずに、病室でおひとりで過ごし続けることにストレスを感じ、在宅医療に切り替えたいと希望されるケースが増えました。 ただ、多職種連携の会が開けなくなり、顔の見える関係性の維持や、立ち話的に患者さんのサポートについて話すような場面が確保しづらくなっていますので、ここが課題と言えますが、最近ではオンライン会議システムを利用した多職種連携の会も開かれるようになってきています。

※本記事に掲載している情報や所属、役職等は取材時点のものです。

取材日:2020年9月25日

【本記事に関する内容は、取材に基づいたものであり、特定の事柄をアドバイスしたり推奨する事を目的としておりません。
また閲覧者が当記事の記載事項を意思決定や行動の根拠にしたとしても、当社は責任を負いかねますのでご留意ください。】