監修 岐阜大学病院チーム
岐阜大学大学院医学系研究科 消化器外科・小児外科学 教授 松橋 延壽 先生
/岐阜大学医学部附属病院 薬剤部 主任 藤井 宏典 先生

本記事内容に関するお問い合わせ先:

 〒501-1194  岐阜県岐阜市柳戸1番1
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岐阜大学医学部附属病院は「都道府県がん診療連携拠点病院」に指定され、岐阜県におけるがん診療の中心的な役割を担っています。また、院内に併設されたがんセンターは、各領域の専門医による先進的な診療に加え、多職種が連携したチーム医療による患者さんへの支援や情報提供にも注力していることが特徴です。今回は、その一環として外来がん化学療法を受ける患者さんに対して薬剤師外来で薬剤師がかかわることで治療提案を行い、更にそのフォローを薬薬連携にて行う取り組みについてご紹介いただきました。

当記事は、特定の事柄をアドバイスしたり推奨したりすることを目的としておらず、閲覧者が当記事の記載事項を意思決定や行動の根拠にしたとしても、小野薬品は一切の責任を負いません。

記事内容

1.外来がん化学療法に求められる多職種によるチーム医療

― 外来がん化学療法を受けるすべての患者さんに薬剤師が関わる ―

がんに対する化学療法は、日常生活を送りながら治療を受ける外来がん化学療法が主流となっています。当院でも、年間に延べ7,000名を超える患者さんが外来がん化学療法を受けています。外来での治療は、患者さんが社会生活を中断することなく通院しながら治療を受けることができる一方で、多様化する副作用に対応しながら治療を継続する必要があります。したがって、外来がん化学療法を有効かつ安全に実施するためには、看護師や薬剤師などの多職種によるサポートが不可欠であり、チーム医療の重要性が高まっています1)

当院では、外来がん化学療法を受けるすべての患者さんに対して、薬剤師が服薬指導や副作用マネジメントに関わる体制を整えています。外来がん化学療法に薬剤師が関わる有用性については、診察前面談の前後でQOL評価を行い、薬剤師による面談が患者さんのQOL改善に寄与することが明らかになっています。具体的には、薬剤師の介入による副作用マネジメントや服薬指導が、副作用の重症度を軽減し、患者のQOLを向上させることが示されました2)。この研究成果は2023年の中央社会保険医療協議会(中医協)の資料にも採用され3)、2024年度の診療報酬改定において、がん化学療法の際に医師の診察前に薬剤師が介入した場合の評価として「がん薬物療法体制充実加算100点(月1回に限り)」が新設されました4)。本制度の導入により、薬剤師の診察前面談が医療制度上でも重要な役割を担うものとして位置づけられています。

― 外来がん化学療法における薬剤師の業務内容 ―

外来がん化学療法における薬剤師の業務は多岐にわたります。まず、薬剤師は抗がん剤レジメンの審査・登録・患者説明資料の作成を行い(図1-①)、初回投与時には治療内容、抗がん剤の副作用、支持療法などについて患者さんに説明します(図1-②)。治療が始まると症状の評価ツールである「治療ダイアリー」を患者さんに手渡し、副作用に関連する症状を毎日記入してもらうようにしています。

2回目以降の投与時には、医師が「薬剤師外来」への依頼オーダーを行った患者さんを対象に、医師の診察前に薬剤師による面談を実施し、患者指導や副作用モニタリングを行います(図1-③)。そして、支持療法の処方提案、副作用対策の立案と実施、お薬手帳を介した情報提供、医師・看護師への薬剤情報提供、抗がん剤の混合調製などを行い、がん化学療法の安全性向上に貢献しています(図1-④~⑧)。また、医師から『薬剤師外来』の依頼オーダーがなかった患者さんに対しても診察後に面談を実施し、支持療法の処方提案などを行っております。

図1 外来がん化学療法への薬剤師の関わり

2.薬剤師外来を利用したがん悪液質症状スクリーニングと処方提案への取り組み

前述のように、外来がん化学療法を受ける患者さんすべての方に対して、薬剤師が対応しています。最大の目的は、化学療法から脱落することなく治療を継続できるように支援することです。そのために、患者さんの症状を丁寧に聴き取り、検査値にも注意を払いながら、副作用の確実なフォローアップを行っています。また、栄養状態の確認にも注力し、体重や食欲のわずかな変化を見落とさないよう、医師の診察の前後で適切な介入を行っています。

がん悪液質は、適切な介入のタイミングが課題であり、多職種がどのように関与するかが重要です。特に、医師の診察前に実施される薬剤師外来を活用することで、がん悪液質を早期発見・介入につなげる取り組みが注目されています5)

当院では、医師が「薬剤師外来」の依頼オーダーを入力した患者さんに対して、薬剤師が、診察前面談を実施し、がん悪液質の評価を行っています(図2-A)。その診察前面談では、体重の減量や疲労感、筋力低下などの症状を確認し、更にCRPやヘモグロビン、アルブミンなどの検査値を考慮しながら、患者さんの全身状態を確認します(図2-B)6)。がん悪液質が疑われる場合、薬剤師はがん悪液質対策の仮処方オーダーを行います(図2-C)。更に、栄養士と連携し、栄養指導とInBodyによる身体測定を依頼し(図2-D)、代行処方した薬剤に関連して、実施が必要な検査があれば、代行にて検査オーダーの入力を行います(図2-E)。その後、医師は薬剤師が電子カルテに記載した内容を確認し、仮処方オーダーの承認を行います。その後、医師が院外処方箋を発行し、押印することで処方内容が正式に承認されます。

一方で、医師の依頼オーダーがない患者さんについては、医師の診察後に薬剤師が対応し、症状の確認や副作用マネジメントを実施することで、より安全な治療の継続を支えています。このように、薬剤師外来を利用することで、多職種が連携したチーム医療が実現し、外来がん化学療法を受ける患者さんに対して、よりきめ細やかなサポートを提供することが可能となっています。その中で、がん悪液質の可能性も含めて患者さんの状態を把握し、必要な対策を適切なタイミングで提案することで、医師ががん治療に専念できる環境の構築を目指しています。

図2 薬剤師外来の実際

3.薬薬連携のこれから

更に、院内の薬剤部だけでなく近隣の保険薬局との薬薬連携を通じて、外来がん化学療法を受ける患者さんの情報共有を図ることも治療提案の可能性を広げるために重要と考えています。がん悪液質に関しては、いかに早く治療を開始するかが課題となっています。がん悪液質は終末期の病態ではなく、がん腫にもよって異なりますが、進行がん患者さんの50-80%に認められるとされており7)、早期発見・早期治療介入8)が今後も重要です。その実現方法の一つとして、服薬情報提供書(トレーシングレポート)の活用も視野に入れています。現在、当院では周辺の保険薬局との間で、6種類のトレーシングレポートを用いた情報共有を実施しています(参考トレーシングレポート:https://www.gifu-upharm.jp/cooperation/tracing/)。その中の「がん化学療法用トレーシングレポート」を活用し、保険薬局の薬剤師が患者さんの食欲不振や悪心などの有害事象を確認しながら、食事量や体重の変化などについても聞き取り、当院にフィードバックする取り組みを実践しています(図3)。保険薬局から得られた情報を院内の多職種で共有することにより、がん化学療法を受ける患者さんがより安心して治療を継続できる環境づくりを目指しています。

図3 がん化学療法用トレーニングレポートを用いた情報収集のフロー(例:食欲不振の場合)

このように、薬剤師外来を起点とする、院内と近隣薬局を含めたチーム医療の連携は、最良のがん医療の実現に向けた重要な取り組みの一つであると考えています。

References

  1. 1) 平井利幸 ほか, 日本医療マネジメント学会雑誌. 2017; 17(14): 214-219.
  2. 2) Fujii H, et al. J Pharm Health Care Sci. 2022; 8(1): 8.
  3. 3) 中央社会保険医療協議会 総会(第559回)議事次第 個別事項(その2)について 総-4
    https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001158216.pdf
  4. 4) 厚生労働省保険局医療課 令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001252076.pdf
  5. 5) Fujii H, et al. Asia Pac J Oncol Nurs. 2023; 10(1): 100280.
  6. 6) Evans WJ, et al. Clin Nutr. 2008; 27(6): 793-799.
  7. 7) Argilés JM, et al. Nat Rev Cancer. 2014; 14(11): 754-762.
  8. 8) 日本がんサポーティブケア学会ほか 監修: がん悪液質ハンドブック「がん悪液質:機序と治療の進歩」を臨床に役立てるために, p8、12, 2019.

2025年4月作成